2016年03月04日

伸びるネット通販かリアルな小売業界か ビジネス目線で考えよう(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 アメリカの店舗型小売りが、ネット通販との競争に押されて苦境に陥っています。ネット通販はスマートフォン経由の注文が急速に増えており、昨年の年末商戦ではネットで買い物をした人が実際の店で買い物をした人を初めて上回りました。最終的に小売りがすべてネットに置き換わるとは考えられませんが、リアルな店舗からネット通販への流れはまだ続きそうです。アメリカの小売りの変化は、少し遅れて日本に及ぶというのが定説で、日本でもリアルな店舗中心の小売りは、今後の苦戦が予想されます。ネット通販が隆盛となる弊害もいろいろありそうですが、今のところ、この大きな流れは止まりそうにありません。

 今日取り上げるのは、8面(経済面)の「米店舗型小売り苦境/スポーツ用品大手破綻」です。
 記事の内容は――米スポーツ用品販売大手のスポーツオーソリティは2日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を米裁判所に申請したと発表した。インターネット通販との競争が厳しく、業績が悪化した。日本で展開する共同出資の店への影響はないという。米国ではアマゾンに代表されるネット通販が急速に広がり、店で売るスタイルが中心の小売り大手は大量閉店や経営破綻が相次いでいる。ウォルマート・ストアーズは1月、全米154店を閉店すると発表。本拠地での大規模な閉店は「異例」(米紙)だ。百貨店メーシーズも最近、全体の5%ほどにあたる不採算の約40店を順次閉店している。家電量販店2位だったラジオシャックは1年前に破綻し、2000店近くを閉じた。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 リアルからネットへの流れは、とどまるところを知りません。日本ではまだ大手小売りの破綻には至っていませんが、アメリカでは破綻や店舗閉鎖が相次いでいます。アメリカは国土が広いのでネット通販の優位性が高く、人口が密集している日本ではアメリカほどの優位性はないだろうという人もいますが、日本でもネット通販の市場規模は毎年2桁の伸びを示しており、現在の10数兆円の市場規模が2020年には20兆円台になると予想されています。ネット通販の小売市場全体に占める比率も現在の5%程度から将来は20%くらいまで伸びるだろうと言われています。

 ネット通販は確かに便利ですし、商品を大量に扱うので一般的に値段も安くなります。ただ、弊害もいろいろとありそうです。ひとつは、数少ない通販会社が寡占体制を作ることです。日本でも、楽天、アマゾン、ヤフーの3社が圧倒的に大きく、中でもアマゾンが1強になりそうな勢いを見せています。国境などないに等しいネット通販業界ではありますが、アメリカ資本のアマゾンに席巻されるのも日本人としてあまり気持ちいいものではありません。

 アマゾンの強みは、あくなきコストダウンとサービス向上への挑戦や、お坊さん派遣まで手がけるタブーなき品揃えです。ただ、アマゾンについて書かれた本や雑誌記事によると、職場はかなり過酷なようです。週刊東洋経済3月5日号によると、上司が部下に指導したり研修したりすることはほとんどないとか、入社すれば即戦力として猛烈に働くことを強いられるとか、達成不可能な目標を与えられて退職せざるを得ないようになるとか、物流倉庫では1日24kmも歩くとか、さまざまな過酷な環境が社員の声などをもとに書かれています。

 ほかにも弊害としてシャッター商店街の悲劇が加速する恐れがあります。地方都市の商店街が寂れた原因のひとつとして、かつては郊外型の大型ショッピングモールの進出が言われました。今では、ネット通販が盛んになることが商店を苦境に追い込み始めています。特に、ネット通販の影響は地方都市だけでなく大都市にも及ぶことが特徴です。すでに、書店などは大都市でも廃業や閉店が増えています。

 またネット通販の限界もどこかにありそうです。トラック配送による物流は交通量や運転手の雇用などの面で無限ではありません。実際に商品を見たり、さわったりしないで買うことへの抵抗感も残りそうです。ショッピングの楽しみを味わいたい人は、やはりリアルな店舗を求めるでしょう。

 就活で小売業界を考えている人は少なくないと思います。リアルな店舗からネット通販への流れをどう考えるかは悩ましいところです。伸びゆくネット通販にかけるか、伝統に基づくブランド力や変化に対応する力を信じてリアル店舗中心の小売り大手を選ぶか。何とも言えませんが、当面は勢いのある職場を望むのならネット通販、比較的安定した職場を望むならリアル店舗中心の小売り大手くらいでしょうか。誰も分からないことですが、ネット通販がどこまで伸びるかを、ビジネスの視点から自分の頭で考えてみて、意見を持つことも小売業界の面接では役に立つかもしれません。

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