2015年06月12日

テレビ局、生き残りのカギは番組制作力 企業の「核」を見極めよう(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:メディア

ニュースのポイント

 テレビ局は就職先として人気があります。クリエイティブな仕事で給料もよく、タレントがふつうに廊下を歩いていたりして派手で楽しそう。そんなイメージを持っていませんか? 今のテレビ局、特に東京キー局は確かにそういうイメージと大きく違わないと思いますが、ネット社会の進展でうかうかしていると存亡の危機が訪れると心配する人もいます。志望する人は将来を予想して、テレビ局は生き残れるのか、生き残れるとすれば何がポイントか、を考えてみるといいと思います。

 今日取り上げるのは、経済面(10面)の「動画サービス スマホの陣/定額配信・見放題『視聴者』奪い合い」です。
 記事の内容は――スマートフォンでも見やすい動画配信サービスが、「定額&見放題」を武器に利用者を奪い合っている。自前で番組作りに乗り出し、さながら「小さなテレビ局」。新たな「スマホ視聴者」の誕生に、民放各局も布石を打ち始めた。ネットを使った動画配信サービスは、2000年代半ばにIT企業やテレビ各局が参入したが、「動画は無料」の慣習に阻まれて収益には結びつかなかった。それがスマホと無線LANが普及し、手元で動画が見やすくなった。MM総研の2012年の調査では、スマホで有料の動画サービスを利用する人が11年度の260万人から5年で4倍以上に増えると予測。急増する「スマホ視聴者」をつかもうと各社が躍起になっている。世界で6千万人超の会員を持つ米ネットフリックスは、今秋に日本で事業を始める。詳細は不明ながら、迎え撃つ国内勢は「黒船」の来襲前にシェアを広げておきたいとの思惑もある。日本テレビは米Huluの日本法人を買収し、テレビ朝日も新サービスの提供に向けてサイバーエージェントと組むなど「業界再編」が進む。メディア産業に詳しい野村総研の三宅洋一郎さんは「自前で作品をつくるにもノウハウが必要。テレビ局とIT企業の提携がさらに活発になる」と予想する。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 テレビ局は限られた電波を使う権利を得て、番組を日本の隅々の家庭まで送り届けてきました。NHKは受信料が、民間放送はCM料金が収入のほとんどですが、圧倒的な影響力によって収入は順調に拡大し、安定した経営を続けてきました。

 しかし、テレビもインターネットの影響をじわじわと受け、ここにきて一気に大きな影響を受けるかもしれない局面が迫っています。アメリカのインターネット動画配信サービスのネットフリックスが今年秋に日本でもサービスを開始することにしているからです。ネットフリックスは、膨大な数の映画やドラマの権利を持っており、視聴履歴などから会員の好みの作品を予測して提案する「レコメンド機能」を売りにしています。アメリカなどでは月額1ドル程度の会費で約6200万人もの会員を集めています。日本では、独自の番組も制作することにしており、すでに吉本興業と提携してバラエティ番組なども制作することにしています。

 アメリカでは、テレビリモコンに「ネットフリックスボタン」がつけられ、テレビ画面でふつうのテレビのように見るのが一般的です。日本でも東芝やパナソニックがネットフリックスボタン付きテレビを発売しました。つまり、スマホだけでなくテレビでインターネット経由の番組を見るのが当たり前になる時代がそこまで来ているのです。

 そうなると困るのは、これまでのテレビ局です。自分のところの番組がその分見られなくなると、CM収入が減ることが予想されます。NHKにしても「見ていないのだから受信料を払いたくない」という人が増えることが心配されます。

 ここでのポイントは、変化するのは番組の送り方であって、番組自体が見られなくなるのとは違うということです。発信元がどこで何を経由して届こうが、視聴者には関係ありません。いい番組、面白い番組なら、視聴者は喜んで見ます。

 これまでのテレビ局は二つの機能がありました。番組を受像機まで送り届けるインフラとしてのハード機能と番組を作るソフト機能です。今、問われているのはソフトの力量になります。IT企業と外部のコンテンツ制作会社が組んでテレビ局の番組より面白い番組を作れば、テレビ局は苦しくなりますし、蓄積したノウハウを生かした競争力のある番組を作ればテレビ局は勝ち残れるわけです。

 企業の将来性を見るとき、その企業の強みの本質、言いかえれば「企業の核」は何かを見る必要があります。テレビ局は番組制作力だと思いますが、自動車メーカーなら、わたしは最終的には技術力だと思います。販売力やデザイン力、企画力も大事ですが、ガソリン車から電気自動車へとか、有人運転から無人運転へ、といった大きな変化を乗り越えるときにカギになるのは技術力です。銀行なら、信用力。運用力や資金量も大事でしょうが、最終的には「ここなら堅実にやってくれる」という信用力だと思います。航空会社なら、核となるのは安全性でしょう。小売りなら、顧客本位の姿勢でしょう。朝日新聞の核は? 私は取材力だと思います。

 こうした核となる部分に定評のある会社なら、就職先として当分大丈夫だと思います。もちろん、世の中の変化のスピードは速いので、当分としか言いようはありませんが。

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