2015年06月11日

東京海上が大型買収 金融機関の海外展開、なぜ?

テーマ:経済

ニュースのポイント

 東京海上ホールディングス(HD)が、1兆円近い巨額を投じてアメリカの保険会社を買収します。他にも金融機関による海外事業の合併・買収(M&A)が相次いでいます。どんな背景があるのでしょう。「なぜ」を考えること、知ること自体が業界・企業研究につながります。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、総合面(3面)の「東京海上、米保険を買収/9400億円/人口減 海外に活路」です。経済面(8面)にも関連記事「縮む国内 M&A加速」が載っています。
 記事の内容は――東京海上HDは10日、子会社の東京海上日動火災保険を通じて、米保険会社HCCインシュアランス・ホールディングスを買収し、完全子会社化することで合意したと発表した。買収金額は約75億ドル(約8400億円)で、保険会社による海外事業の買収では過去最大規模。HCCは会社役員の賠償責任保険や航空保険など、一般の保険ではカバーされない「スペシャルティー保険」と呼ばれる専門性の高い保険を100種類以上販売し、米英、スペインなどで事業展開している。東京海上HDの永野毅社長は、相互に補完し合うことで自然災害が多い日本での保険金支払いが増えても「安定的なグループ経営を実現できる」と話した。人口減少などの影響で国内の保険市場は伸び悩んでおり、国内の生損保各社は相次いで海外の保険事業の買収を進めている。東京海上HDは今回の買収で、全体の利益に占める海外事業の割合が38%から46%に増える見込み。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 表を見てください。東京海上HDだけでなく、大手の損害保険、生命保険やメガバンクは、この数年、海外の会社を次々に買収しています。ほかにも、日本生命保険は今後10年で1兆5000億円をかけ、明治安田生命保険は2017年3月までに2500億円をかけて国内外での買収や出資を進める方針。今日の経済面には、第一生命保険の渡辺光一郎社長が、米国、アジアに加えて、ヨーロッパへの展開にも意欲を示したとの記事が出ています。東京海上は今回の買収で、利益の半分近くを海外で稼ぐまでになります。

 昨日の「メーカー志望者必見!『ものづくり白書』」でも書きましたが、大きな流れとしては今は「円安」の局面です。円の価値が下がっているので、海外企業の買収には円高のときよりも余分にお金がかかります。それでも各社が競うようにM&Aを進める最大の理由は、国内市場の伸び悩み、縮小です。日本の人口は減少し続け、少子高齢化が加速度的に進んでいきますから、損保も生保も国内での事業拡大は難しいでしょう。

 損保各社の場合、売り上げの半分を占める自動車保険で収益が上げにくくなっている事情もあります。若者の車離れが進み加入者数が頭打ちになる一方、高齢者の事故が増えて支払いがかさんだことによる収支悪化です。自動車保険料を値上げしたことなどから、2015年3月期決算では、東京海上、MS&ADインシュアランスグループHD、損保ジャパン日本興亜HDの大手3グループとも、最終的なもうけを示す純損益がグループ発足後の最高益を更新しました。しかし、長期的には国内でもうけにくくなっていくことに変わりはありません。

 損保には、もう一つ狙いがあります。永野社長は記者会見で「地理的に分散させることで相互で支え合える。収益の持続的な成長が可能になる」と語りました。日本はもともと自然災害が多く、東日本大震災に加えて、ここ数年は雪害や風水害などの被害にともなう保険金支払いが経営を圧迫してきました。海外に事業を分散させたり、保険の種類を増やしたりすることで、リスクの分散が図れるわけです。各社のグローバル戦略には必然性があることがわかりましたか。

 ところで、あなたは自動車運転免許を取得していますか? 自動車を持っている友人はどのくらいいますか? おじいさん、おばあさんはまだ車を運転していますか? 損保各社の面接などでM&Aが話題に出るかもしれません。その際には、人口減少などの背景に加えて、「私の周りでは」など自分に引きつけた話ができるように心がけてください。ぐんと説得力が増しますから。

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