ニュースのポイント
長く続く「出版不況」を出版社はどう打開しようとしているのか。電子書籍は大きく広がるのか。講談社、KADOKAWA、日経BP社、光文社、新潮社、岩波書店の大手6社のトップが朝日新聞のインタビューに答えました。電子書籍に対する期待の大きさのほか、各社の個性も見えてきました。
今日取り上げるのは、総合面(6面)の「出版不況 大手トップに聞く③ 新潮社・佐藤隆信社長 商業施設作り話題発信/日経BP社・長田公平社長 1冊ごとに利益を検証」です。
インタビューの概要は――【新潮・佐藤社長】本が売れない要因は、文庫への新古書店の影響が大きい。電子書籍はいまでも売れているが、今後大きな伸びが期待できるわけではない。電子の割合は文芸書では2割もいかず、出版社の経営を支えるものではないと思う。
【日経BP・長田社長】雑誌の収益悪化の最大の原因は広告収入減。ピーク時には販売収入の1.5倍あったが、今はその3分の2くらい。力を入れているのはデジタル化。「日経ビジネス」は1年ちょっとで電子比率が10%を超え、紙とあわせた部数は落ちていない。出版界にはコストカットの宝の山が眠っている。売れない本は作らない。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
出版不況をデータで見てみましょう。
◆2013年の書籍と雑誌の総売上額=前年比3.4%減の1兆7711億円。9年連続の市場縮小で1996年の最盛期の65%に(出版ニュース社調べ)。
◆2013年の雑誌の総売り上げ部数=18億部。1995年の39億部の半分以下(出版科学研究所調べ)。利益率が高い雑誌の不調は、出口が見えない不況の最大の要因といわれる。
◆2014年(5月1日現在)の全国の書店数=昨年から298店減り1万3943店に。334の自治体には新刊書店がゼロに(アルメディア社調べ)。
◆2013年の全国の出版社数=前年から88社減って3588社とピークから2割以上の減(出版ニュース社調べ)。
本離れ、雑誌離れはネットやスマホの普及が原因と言われていますが、紙の本の代わりになると期待された電子書籍端末は2012年度の出荷台数が47万台。当初予想の半分にとどまっています(MM総研調べ)。
景気の悪い話が続きましたが、一連のインタビューでは新潮社の佐藤社長を除き、各社トップの電子書籍にかける期待の大きさが明らかになりました。講談社の野間省伸社長は「電子書籍市場が伸びていないというのは大いなる誤解。スマホで読む人が大半で、とくにマンガ市場が伸びている」と語り、光文社の丹下伸彦社長は雑誌の電子化について「一挙にやろうと思っている」と強気の姿勢です。電子出版のインプラス社の推計によると、電子出版物の2013年度の市場規模は1013億円。紙の出版物の6%程度ですが、同社は2018年度には3000億円を超すと予想しています(冒頭のグラフ参照)。KADOKAWAの角川歴彦会長も「電子は紙の本の市場の25%くらいになるのでは」と予測しました。
冒頭に載せたもう一つのグラフは、国内最大のマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)の発行部数の推移です。9月22日に電子版が売り出されて話題になりました。開始2週間で80万人がアプリをダウンロードしたそうです。昨年スタートした講談社の「モーニング」電子版は半年で黒字になりましたし、小学館や白泉社などマンガ雑誌を電子化する出版社が続いています。ジャンプ電子版が成功すれば一気に広がるかもしれません。
一方で表にまとめたように、各社が重点を置く取り組みには個性がにじみます。こうしたトップの発言に各出版社の目指す方向性が表れます。出版不況や電子書籍は、出版社の選考では絶対に欠かせないテーマですから、今後の企業研究の参考にしてください。「大手トップに聞く」は明日の朝刊にも掲載予定です。
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