2014年09月19日

iPS細胞のこれから…「新薬開発」に期待

テーマ:医療・健康

ニュースのポイント

 iPS細胞をめぐる大きなニュースが、この1週間に二つありました。キーワードは「再生医療」と「新薬の開発(創薬・そうやく)」です。京都大学iPS細胞研究所所長・山中伸弥さんのノーベル賞受賞から2年。iPS細胞は実験室を出て、現実の医療に役立てる実用化に向けて一歩進みました。とくに新薬の開発は、製薬業界などには大きな関心事です。

 今日取り上げるのは、総合面(2面)の「いちからわかる! iPS細胞を使って目の難病が治せるの?」です。
 記事の内容は――理化学研究所などのチームが、目の難病(加齢黄斑変性・かれいおうはんへんせい)の患者に、iPS細胞を使った世界初の手術をした。患者の皮膚から作ったiPS細胞を目の網膜の組織に変化させて移植した。iPS細胞は、骨や神経、内臓など身体のさまざまな細胞や組織になれる。手術はこれを作って移植し、病気やけがで失った機能を回復させる再生医療の一つ。これから臨床研究で安全性や効果、副作用などを確かめないと、一般的な治療法にはならない。他にも、パーキンソン病、重い心不全、脊髄(せきずい)損傷、血小板が減る病気などで臨床研究の早期開始をめざしている。難病の治療薬の開発にもiPS細胞は役立つ。患者数の少ない難病は新薬の開発が進みにくいため、患者からiPS細胞を作り、病気を起こしている細胞や組織を再現して有効な薬を効率的に見つける研究が行われている。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 iPS細胞について少し復習します。人間の体は60兆個の小さな細胞でできています。もとはたった1個の細胞が2個、4個と分裂を繰り返して増え、目や筋肉、神経などになります。近年、どんな細胞にもなれる「万能細胞(ばんのうさいぼう)」の開発が進み、輸血用の血液や治療に使う臓器を大量に作れると期待されています。「万能細胞」には次の種類があります。
◆受精卵:精子と卵子がくっついてできる天然の万能細胞。1個の受精卵から人体の細胞のすべてができる。
◆ES(イーエス)細胞(胚性幹細胞=はいせいかんさいぼう):受精卵が数十個に分裂したときに壊して作る。生命の始まりである受精卵を壊す必要があり、人間への応用には倫理的な問題がある。
◆iPS(アイピーエス)細胞(人工多能性幹細胞=じんこうたのうせいかんさいぼう):皮膚や血液など普通の細胞に数個の遺伝子を入れて元の受精卵のような状態に「初期化」する。体細胞から作れるので倫理上の問題が少なく工業製品のように作ることができる。

 今日の記事は主に「再生医療」を紹介していますが、昨日は「新薬の開発」で大きなニュースがありました。骨の難病に高脂血症治療薬スタチンが効く可能性があることを、患者からつくったiPS細胞を使って発見したと、京都大などのグループが発表。患者での臨床試験(治験・ちけん)を2年以内に始める計画で、iPS細胞技術を用いた治療薬研究の先駆けとして期待されています。難病の薬では、アルツハイマー病、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう・ALS)など様々な病気で研究が進んでいます。新薬の開発には膨大な時間と費用がかかり、とくに患者の少ない難病は病気自体の研究が進みにくい事情もあります。iPS細胞は患者の細胞から作るため、有望な薬の候補を細胞レベルで絞り込めるなど、開発の費用や期間を大幅に削れる可能性があるのです。

 山中さんは、16日に東京・丸の内で開かれた「知と学びのサミット」(朝日新聞社主催)で「再生医療はiPS細胞が主役。一方、創薬にもiPS細胞がどんどん使われるでしょうが、薬が主役で患者さんはiPS細胞が貢献したことに気づかない。でもそれこそiPS細胞の意義」と語りました。製薬や医療関係の業界に関心のある人は、とくに注目してください(「知と学びのサミット」の様子は10月4日の朝日新聞朝刊に掲載予定)。iPS細胞については以前「iPS細胞の普及は保険会社にかかってる⁉」(2013年12月4日)でも書きました。読んでみてください。

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