2014年05月21日

タイの政治混乱、日本企業にも影響大⁉

テーマ:国際

ニュースのポイント

 タイで陸軍が全土に戒厳令(かいげんれい)を発令しました。「戒厳令」というとおどろおどろしい感じがしますね。軍が街中に武装配備され、報道規制が敷かれましたが、外出や集会は禁じておらず、企業の活動も普段どおりで今のところ大きな混乱はないようです。タイには自動車や電子機器を中心にたくさんの日本企業が進出し、大勢の日本人が暮らしており、企業は情勢を注視しています。今日は、タイの政治情勢の基本を押さえます。

 今日取り上げるのは、1面の「タイ戒厳令 対話促す/陸軍司令官/両派、なお隔たり」です。国際面(9面)に関連記事「タイ軍また動く」があります。
 記事の内容は――タイ全土に戒厳令を発令した陸軍司令官は「対立する2大勢力が平和的に話し合うことだ」と述べ、タクシン元首相系と反タクシン派との対話を促す考えを示した。司令官は暴力をあおる報道の禁止、タクシン、反タクシンの両派が運営する衛星テレビの放送中止などを打ち出した。反政府デモは昨年11月に始まり、今年2月の総選挙を妨害。タクシン氏の実妹のインラック首相が失職に追い込まれると、タクシン派もデモ集会を始めた。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 タイでは長年、政治の混乱が続いています。タイの政治対立の基本的な構図がわかると、記事も理解できるようになります。
【タクシン元首相】2001~06年の首相。低所得層に手厚い政策を進めて農村を中心に支持を固めた。2006年の軍事クーデターで追放され、その後、不正土地取引事件で有罪判決を受けて海外逃亡中。
【インラック前首相】タクシン氏の実の妹で2011年の総選挙で首相に就任。タクシン氏の帰国に道を開く恩赦法案などで与野党が対立。今年2月、下院を解散し総選挙に打って出たが、反政府派の妨害を受け総選挙は無効に。5月7日、反政府派が訴えた政府高官人事をめぐる憲法裁判所の判決で失職。いまタイでは副首相が首相代行を務めている。
【タクシン派】首相失職後もタクシン氏を支持する地方や都市部の低~中間所得者層。総選挙のやり直しを主張。デモするときの服装から「赤シャツ派」とも。
【反タクシン派(反政府派)】タクシン氏やインラック氏による地方や低所得層重視の政策に反発する都市の財閥や知識層、中間層。2008年末~2011年は政権の座にあった。恩赦法案に抗議してデモを続けていた。選挙によらず暫定首相を選出するよう求めている。赤シャツに対して「黄(色)シャツ派」とも。

 国際面の表にあるように、タイでは1950年代から政治が混乱すると軍がクーデターを起こしてきました。最後は国民に絶大な人気がある国王が仲裁して収束するパターンで、「タイ式民主主義」とも呼ばれます。今回、軍は憲法の規定に沿った治安対応で「クーデターではない」と言い、両派の話し合いを促しています。ただ、主張の隔たりは大きく、解決の糸口は見えません。

 タイの政情が日本でとくに注目されるのは、日本と関係が深い東南アジア諸国連合(ASEAN)の中核国であり、中でももっとも多く日本企業が進出している国だからです。東洋経済「海外進出企業総覧2013年度版」によると、日本企業進出国トップ10は、①中国6091件 ②米国2276件 ③タイ1853件 ④香港1220件 ⑤シンガポール1111件 ⑥台湾989件 ⑦インドネシア862件 ⑧英国847件 ⑨マレーシア829件 ⑩韓国815件。タイ進出の日本企業数については、今年2月時点で3924社というデータもあります(帝国データバンク調べ)。タイには5万人の日本人が住んでいます。2011年には大洪水に見舞われ、日本企業も長期間の操業停止で大きな打撃を受けましたが、政府の投資優遇策があり、賃金が安く質が高い労働力を確保できるタイの魅力は衰えていません。洪水後にも投資や進出企業数は増えています。

 これからタイ情勢のニュースに接したら、デモをしているのが赤シャツか黄シャツかを見ながら、日本企業にどんな影響があるのかも考えてみてください。志望企業の海外進出についても、企業のホームページなどで調べてみましょう。

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