ニュースのポイント
ウクライナをめぐって、欧米対ロシアの間で緊張が高まっています。なぜ問題なのか、なぜ米国が出てくるのか、よくわからないという感想を聞きました。歴史や地理が複雑に絡まっているので、学生にはイメージしにくいかもしれません。ウクライナ問題を取り上げるのは3日連続ですが、今日は歴史的な経緯や地理的な特徴を解説し、そもそも何が問題なのかを整理します。それぞれの事情がわかれば、きっと「今」が見えてきますよ。
今日取り上げるのは、1面の「派兵、現時点では否定/プーチン大統領『最後の手段』」です。ほかにも、総合面(2面)「米EU 弱気の対抗策」、国際面(11面)「兄弟国家 断絶の危機」、オピニオン面(14面)の社説「ウクライナ危機/孤高の愚 ロシアは悟れ」など多くの関連記事があります。
記事の内容は――ロシアのプーチン大統領は、自国民の安全を確保するためとして上院の承認を得たウクライナへのロシア軍派遣について「現時点では必要性はない」としつつ「最後の手段」と語った。これに対し、ウクライナの国連大使は、ロシア非難決議案を近く国連総会に提出すると表明。オバマ米大統領は「ロシアを孤立させる経済的、外交的な措置を検討している」と述べた。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
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ウクライナ問題をひとことで言うと、ロシアと欧州の真ん中に位置するウクライナが、20世紀のようにロシアの仲間としてとどまるのか、新たに欧州の仲間入りをするのか――の争いです。さらにロシア軍の動きの背景には、ロシア黒海艦隊が駐留しているウクライナ・クリミア半島を影響下にとどめようとする狙いがあります。米国にとっては、東西冷戦以来続く米ロの覇権争いでもあります。これからの面接で話題に出るかもしれません。以下の基本だけでも押さえておきましょう。
【ウクライナ】ソ連の中でロシア共和国に次ぐ規模の共和国だったが、1991年のソ連崩壊で独立。東はロシア、西は欧州連合(EU)に接し面積は日本の1.6倍。人口は約4500万人で8割がウクライナ人、残りは主にロシア系。1986年に大事故を起こしたチェルノブイリ原発がある。
政治では、親ロシア派と親欧州派が政権を競ってきた。今年2月下旬に親ロシア派の治安部隊と親欧州派の反政権派が衝突し80人以上の死者が出るなど混迷。その後、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領と野党が国民連合政権樹立などで合意したが、大統領が逃亡して議会は大統領を解任。親欧州派の野党主体の新政権が発足した。新政権はEU加盟を目指す。欧米は新政権を正当性があるとして支持しているが、ヤヌコビッチ氏を支援してきたロシアは憲法違反のクーデターだと主張。ここに欧米対ロシアの対決構図がある。
【クリミア半島】ウクライナ南部の黒海に突き出た半島で、ウクライナの中のクリミア自治共和国を構成。自治共和国は国の中で自治権を認められた「国家内国家」のこと。この場所はもともとロシアとのつながりが深く、ロシア系住民が6割を占める。18世紀にロシア帝国に併合されて以来、南端の都市セバストポリにロシア黒海艦隊の基地があり、ウクライナ独立後もロシアに貸している。ウクライナが親欧州政権だった2009年には、黒海艦隊の撤退をめぐって両国が対立。天然ガス供給停止など関係悪化の原因になった。
今年2月末にロシア派の武装部隊が自治共和国議会を占拠する中で新首相が選ばれ、ロシアに支援を要請した。自治共和国がロシアの一部になるかどうかを問う住民投票を3月30日に実施する。ウクライナ新政権は、自治共和国の新首相選出自体が憲法違反だとしている。
【ロシア】ロシアにとってウクライナ人は、文化、言葉、習慣が似ていて仲間意識があり「ウクライナは兄弟国」との意識が強い。軍事的にはクリミア半島は手放せない拠点だ。ロシアは広大な海岸線を持つが、そのほとんどは冬には凍る北極海。ロシアにとって黒海は、地中海から兵力を南方に展開できる唯一の玄関口だからだ。
【米国】国際的には、ロシアの軍事行動は、自治共和国とはいえクリミアが属するウクライナの主権を侵害する行為であり「超えてはならない一線」だ。中でも世界のリーダーを自認する米国は「信じられない侵略行為」ともっとも厳しく批判。対ロ経済制裁を検討しているほか、ロシアを主要国首脳会議(G8サミット)から追放する可能性にも言及する。「国益のためなら外国に軍事介入できる」というロシアの理屈は旧ソ連時代を思わせるもので、米国とソ連が対立した東西冷戦の再来「新冷戦」を懸念する声も上がる。
【EU】ウクライナがEUに加盟すれば市場拡大につながるため、期待感がある。ただEU各国が輸入する天然ガスの多くは、ロシアからウクライナを通るパイプラインを経由する。2009年にロシアとウクライナが対立してロシアが天然ガスの供給を一時的に止めたときには、欧州への供給が細り、一部の国で工場閉鎖、学校休校など混乱した。このためEUはウクライナがロシアと決裂することは望んではいない。
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