2019年11月29日

温暖化防止への取り組みから見える「銀行の本質とやりがい」【イチ押しニュース】

テーマ:環境・エネルギー

 地球温暖化への取り組みを求める若者によるデモ「グローバル気候マーチ」が、きょう29日に世界各地で一斉に行われます。日本でも24カ所以上で予定されています。温暖化をめぐっては、今週の「週間ニュースまとめ」で、多量の温室効果ガスを排出する航空業界に影響する可能性について書きました。今回は、温暖化防止への銀行の取り組みについて取り上げます。銀行は温室効果ガス排出が問題になる業界ではありませんよね。でも、その関わり方から、銀行の仕事の本質ややりがいが見えてきます。(編集長・木之本敬介)

(写真は、9月の「グローバル気候マーチ」に集まった若者たち=2019年9月20日、東京都渋谷区)

世界の若者がデモ「グローバル気候マーチ」

 気候マーチは、スウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの訴えから始まりました。グレタさんは2018年夏、気候危機の影響を受けるのは若者だと訴え、学校を休んでスウェーデンの国会議事堂前で座り込みました。これがSNSで拡散し、世界各地の学生が毎週金曜日に授業をボイコットする「学校ストライキ」を開始。各国で団体「Fridays For Future(FFF)」(未来のための金曜日)が発足し一斉デモに広がりました。9月にあった前回の気候マーチには、185カ国で760万人以上が参加しました。

 29日の気候マーチは、12月上旬にスペインで第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)が開かれるのを前に、欧米の環境保護団体などが中心になってSNSなどで呼びかけました。日本でも、市民団体や有志のグループが参加し、政府や自治体に具体的な対策を求めます。1都市に数万人が集まる欧米に比べると日本の若者の関心は低いといわれますが、今年9月のデモでは全国23都市で5000人が参加。今回の広がりが注目されています。みなさんも当事者として、この問題を考えてみてください。

(写真は、9月にロンドンで行われた「グローバル気候マーチ」=2019年9月20日)

米国が「パリ協定」脱退通告

 今月、地球温暖化に関連する大きなニュースが二つありました。一つは、米国のトランプ政権が11月4日、温暖化対策の国際ルール「パリ協定」からの脱退を国連に通告し、正式に手続きを始めたことです。実際の脱退は1年後になります。温暖化に懐疑的なトランプ氏は2017年、中国やインドなどと比べ「米国に不利だ」として脱退を表明。他国に同調する動きはないうえ、米国の産業界や自治体の取り組みで温室効果ガス排出量は減っているため、短期的な影響は限定的とみられています。ただ、世界2位の温室効果ガスの排出国で、オバマ政権時代は温暖化防止を引っ張っていた米国だけに、長期的な影響が心配されています。

 もう一つは、国連環境計画(UNEP)が11月26日に公表した年次報告書です、世界の温室効果ガスの2018年の排出量は二酸化炭素(CO₂)換算で553億トンで、「過去最高に達した」という内容です。同年までの10年間では、年率1.5%で増えました。報告書は、各国が掲げる目標を積み上げた合計の削減量と、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2度未満、もしくは1.5度に抑制するために必要な削減量を分析。その結果、「1.5度」の実現には2020年から2030年にかけて、世界全体の温室効果ガスを毎年7.6%削減する必要があると警告しました。

「社会のための金融」へ

 さて、肝心の銀行です。世界の銀行が「社会のための金融」に取り組むための「責任銀行原則」が、国連の呼びかけで9月にできました。温暖化、貧困、格差拡大といった地球規模の問題の解決を支える枠組みです。各国の130社が署名。日本からは、三菱UFJみずほ三井住友の3メガバンクのフィナンシャルグループ(FG)と、三井住友トラスト・ホールディングスの4社が加わりました。

 責任銀行原則は6項目(図参照)。事業戦略を国連のSDGs(エスディージーズ、持続可能な開発目標)とパリ協定に沿ったものにし、環境・社会への影響を調べて目標を設定すること、などを盛り込んでいます。三菱UFJは2030年度までに累計で20兆円を「社会のための金融」に使う目標を立て、専門部署もつくりました。再生可能エネルギーへの融資を増やすほか、雇用の創出や貧困の改善につながる事業にも資金を出します。

持続可能な社会を実現する「黒衣」

 「責任銀行原則」で何が変わるのか。日本の銀行はこれまで、石炭火力発電など化石燃料関連への融資が多く、国際的に批判されてきました。今後は「原則」を重視すれば、CO₂排出が多い石炭火力発電や化石燃料などの資源開発への資金供給は減るでしょう。一方で、再生エネルギーによる街づくりや電気自動車、環境性能の良いビルや住宅への融資は増えるとみられています。

 「責任銀行原則」を報じた朝日新聞の記事で、金融関係者がこんなことを言っています。
◆「銀行が変われば企業も変わる。環境と社会のためにお金を動かせば新たな経済成長にもつながる。そうやって次世代に良い未来を残すことが、銀行と銀行を利用する私たちの責任だ」(銀行出身で国連環境計画金融イニシアチブの末吉竹二郎特別顧問)

◆「(責任銀行原則で)銀行と取引先の企業、双方の意識が変わります。企業は社会の一員であり、社会の土台にあるのは環境です。収益だけでなく、社会や環境に良いインパクトをもたらすことが企業価値の向上に結びつくとの意識が高まり、それを銀行がサポートすることになります」「銀行は本来、産業と経済をサポートする黒衣です。それが表舞台で収益を稼ぐ活動に過度に走ったことでバランスが崩れた時期もありました。我々の意識の根底に元々あるものを整理し直し、持続可能な社会を実現する黒衣の役割を果たします」(三井住友トラスト・ホールディングスの大久保哲夫社長=写真)

 銀行の存在意義が詰まっていますね。つまり、銀行は自ら何かモノをつくる実業ではないが、どんな企業のどんな事業に融資するかを決めることによって、社会を良い方向にも悪い方向にも導くことができるということです。責任が重いですが、大きなやりがいもここにありそうです。

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