ニュースのポイント
ホンダが埼玉県に作った新工場が生産を始めました。自動車業界では、日本の自動車メーカーが国内につくる最後の乗用車工場とも言われています。各社が海外に生産をシフトする動きは変わりそうにないからです。長く続いた超円高とグローバル化に対応してきた自動車業界の大きな潮流を理解しましょう。
今日取り上げるのは、経済面(8面)の「国内最後? ホンダ新工場/小型車に特化、年産25万台/各社は海外移転拡大」です。
記事の内容は――ホンダの埼玉製作所寄居工場(埼玉県寄居町)が9日、生産を始めた。主力の新型フィットやミニバンのフリードをつくる小型車専用工場になる。年産能力は25万台、省エネにも配慮した最新鋭工場だ。国内での完成車工場の稼働は、トヨタ自動車子会社のセントラル自動車(現トヨタ自動車東日本)が宮城県につくって以来約2年半ぶり。00年代以降に稼働した完成車工場は、ほかにダイハツ工業子会社・ダイハツ九州の中津工場だけ。自動車各社は長く続いた1ドル=70円台の超円高時代に、為替の変動に左右されにくい生産体制をつくるため海外移転を進めた。ホンダの国内生産はピーク時の02年の約138万台が昨年は102万台に、トヨタはピーク時の07年の422万台から昨年は349万台、日産自動車も80年の264万台が昨年は114万台に減った。米国などでの現地生産拡大に加え、需要拡大を見込む新興国に生産拠点を移す動きが止まらないからだ。国内生産の総台数は90年(1348万台)をピークに減少し、07年に海外生産と逆転。12年には国内生産994万台、海外生産1582万台と差は拡大している。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
国内の自動車関連産業で働く人の数は、自動車会社や部品メーカーのほか、自動車販売、運送業、ガソリンスタンドなども含め548万人(日本自動車工業会)。全就業人口6244万人の8.8%を占める巨大産業です。ホンダの寄居工場の従業員は約2000人。工場は、雇用をはじめ地元経済に大きな波及効果をもたらします。安倍政権の経済政策アベノミクスで円安が進み、輸出産業には有利な状況も生まれています。ただ大きな潮流としては、自動車各社の海外進出の基調は変わっていないため、これが「国内最後の新工場」と言われているのです。
自動車業界は、1985年のプラザ合意以降の円高、米国との貿易摩擦で、まず米国への工場進出を進め、その後は中国や東南アジアなどへの移転を進めてきました。米国と北米自由貿易協定(NAFTA)を結ぶメキシコへの進出も目立ちます。グローバル化による国際競争激化のなか、超円高でも利益が出せるように対応してきたのです。大手企業の工場が海外に進出すると、下請けの中小企業も後を追います。日産自動車や三菱自動車は数年前から、タイでつくった乗用車の日本への「逆輸入」を始めました。国内向けの車の生産まで海外に移す動きが加速すれば、国内の雇用には大きなマイナス要因です。
グローバル化が進むなか、企業が安い労働力と新興市場を求めて起きている構造的な変化が要因です。電機業界は自動車業界よりも早く海外進出したため、すでに多くの製品を逆輸入しています。他の業界でも国内生産と海外進出のバランスに悩む業界があります。海外志向ではない学生のみなさんにも無縁ではありません。興味のある業界について調べてみてください。
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