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人手不足に対応するため、外国人労働者をたくさん受け入れるようにする出入国管理法(入管法)改正案の審議が国会で始まりました。これまで日本で働く外国人は医師や弁護士など「高度な専門人材」に限ってきましたが、単純労働を初めて認める大転換です。5年間で最大約35万人。政府は「移民政策ではない」と言っていますが、事実上の移民受け入れにつながる可能性もあります。みなさんがこれから働く経済界・産業界のあり方にとどまらず、私たちが暮らす日本の社会のあり方にも関わる大きなテーマです。身近な問題として考えて、語れるようにしておきましょう。(編集長・木之本敬介)
(写真は、衆院本会議で出入国管理法改正案が審議入りし、資料に目を通す安倍晋三首相ら=13日)
(写真は、衆院本会議で出入国管理法改正案が審議入りし、資料に目を通す安倍晋三首相ら=13日)
人手不足を支える外国人アルバイトと技能実習生
コンビニエンスストアでは外国人の店員を見るのはすでに日常のことですよね。コンビニで働く外国人は5万人を超え、大手3社の従業員全体の6%強。「東京都心に限ると3割を超える」(ローソン)といいます。なくてはならない存在ですが、その大半は日本語学校や専門学校で学ぶ留学生のアルバイトです。今の入管法が外国人の「単純労働」を認めていないからです。留学生のアルバイトは原則として週28時間までしか働けません。都市部では「コンビニ、居酒屋、弁当工場、清掃」が留学生の4大職種といわれているそうです。もう一つ、人手不足を埋めているのが外国人技能実習制度です。1993年に始まった途上国の外国人を実習生として日本に受け入れる制度で、実習期間は最長5年。「日本の技術を学ぶ」名目のもと企業で「実習」する制度ですが、現実は人手不足の職場を支える労働者です。この4年で1.8倍に増え、劣悪な環境で働かせるブラックな企業が問題になり、受け入れ先企業から失踪した実習生が昨年だけで7000人超にのぼったことも明らかになりました。
今なぜ入管法改正?
国内で働く外国人は2017年10月で過去最高の約128万人。この5年で60万人も増えました。人手不足が深刻な建設業、製造業、飲食サービス業などは、留学生のアルバイトや技能実習生に支えられているのが実態です。日本の産業はすでに外国人労働者なしでは成り立ちません。人手不足はさらに深刻になり、政府は2019年度に約61万~62万人、5年間で約130万~135万人が不足するとの試算を発表しました。これまでのごまかしの手法はもう限界ということで、経済界の強い要望を受けて、政府は単純労働のための外国人労働者を受け入れる方針に転換したわけです。
どう変える?
改正案は、政府が指定した業種で一定の能力が認められる外国人労働者を対象に「特定技能1号」「2号」の在留資格を新設することが柱です。1号は日常生活に支障がない程度の日本語能力試験と、各業種を所管する省庁の技能試験などを経て取得できます。外国人技能実習生は3年以上の経験があれば試験を受けずに資格を変更できます。在留期間は通算5年で家族を日本に連れてくることは認められません。2号の取得には、より難しい技能試験に合格する必要がありますが、在留期間を更新できるうえ、配偶者や子どもを日本に呼び寄せて一緒に暮らすこともできます。上の表を見てください。2019年4月から新制度を導入し、5年間に14業種で最大約35万人、初年度は約4万8000人を受け入れる見込みです。政府は今国会での改正案成立を目指していますが、こうした業種や、「上限5年」としている在留期間などは法案に書かれていず、正式には国会審議なしで決められる省令で決めるとしています。細かいことまで法律に書き込んでしまうと社会や経済情勢の変化に対応しづらくなる面はありますが、あまりに固まっていないことが多く、野党からは「生煮え」「がらんどう」と批判されています。ちなみに、コンビニは14業種に含まれていません。
「移民」の定義は?
「移民政策」も大きな論点です。日本は、欧米諸国とは違って、移民の受け入れに非常に厳しい政策をとってきましたが、今回の改正が事実上の「移民受け入れ」につながるのではないか、との指摘です。
そもそも「移民」とはどんな人たちを指すのでしょう。米国やカナダでは「永住権」をもつ外国人を移民として扱っています。一方、国連は「1年以上外国に居住する人」、経済協力開発機構(OECD)は「上限の定めなく更新可能な在留資格を持つ人」と定義しています。日本では、外国人はみな在留期間を決められて入国するため、「米国型の移民国家」ではありませんが、国連の定義では「すでに移民国家」とも言えるわけです。
「永住者」も増えています。在留期間を更新しながら10年以上滞在すると、永住者資格を申請できます。この20年間で永住者は9倍に増え、在日コリアンなどの特別永住者を合わせると在留外国人の4割以上を占めています。他にもさまざまな資格で長期在住する外国人は多く、在留外国人は昨年末の時点で約256万人になりました。日系ブラジル人ら外国人労働者が多い浜松市の鈴木康友市長は「日本はもう事実上の移民国家だと思います」と語っています。
安心して働き、暮らせるように
安倍晋三首相は国会で「期限を付して、限られた業種に限定的に外国人を受け入れるので、いわゆる移民政策ではない」との答弁を繰り返しています。米国のトランプ大統領をみればわかると思いますが、首相が支持基盤とする保守層は基本的に移民受け入れに強く反対する傾向があります。首相も外国人の受け入れには消極的でした。それでも、生産年齢人口が減少する中、経済界の強い要望もあり方針を転換。外国からの労働力受け入れ自体に反対する声は少なくなりました。あとは受け入れ方の問題です。「移民を受け入れるのは嫌だけれど、人手不足で労働力は受け入れないとやっていけない」。そんなベクトルの違うことを実現しようとしているために、入管法改正案はかなりの無理、矛盾を抱えています。しかし、「移民」と呼ぶかどうかに関わらず、これから日本で働く外国人が増えていくのは確実です。彼らは労働者であると同時に、「生活者」です。日本語教育や社会保障など、安心して働き、地域で暮らせる環境を整えることは必須です。それを怠れば、治安の悪化を招くことになるでしょう。このままだと、長年家族と一緒に暮らせないという人権問題にもなりかねません。会社で、地域で、どう「共生」したらいいのか。自分の身近な問題として、考えてみてください。
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