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5月3日は憲法記念日。日本国憲法が施行されて70年の節目の日でもあります。この間、一度も改正されていない日本の憲法は、現行憲法の中では世界一の「長寿」だそうです=グラフ。じゃあ、そろそろ変えなきゃいけない? いや、これまで改憲されずにきた背景には、日本国憲法特有の理由がありました。今日は憲法について学びましょう。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、オピニオン面(13面)の「施行70年 憲法を考える/70年変わらない意味/少ない分量 詳細は個別立法/大きな構造体 変動に警戒を」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。1面の「改憲不要50% 必要41%/現憲法『日本にとってよかった』89%/本社世論調査」のほか、4、5、12面にも関連記事が載っています。
「短くて長寿」が特徴
オピニオン面には、東京大学准教授のケネス・盛・マッケルウェインさん=写真下=のインタビューが載っています。東京生まれでアイルランド国籍の政治学者です。マッケルウェインさんは米国憲法が施行された1789年以降に世界で存在した約900の成文憲法を比較。日本国憲法には、二つの際だった特徴があることがわかりました。
①全体の文章が短いこと(グラフ)
日本国憲法の英訳の単語数は4998語。最長のインドは14万6000語で平均2万1000語、日本より短いのはアイスランド、モナコなど5カ国だけ。
②長寿(冒頭のグラフ)
70年間一度も改正されていないのは、現行憲法では世界一の長さ。2位はデンマークの63年です。
さらに、
朝日新聞デジタルの記事によると、過去に存在した憲法も含めて、改正していない期間を比べると、1861年にできた旧イタリア王国の憲法が80年を超えて歴代1位の「長寿」。日本国憲法は2位だそうです。
改憲のハードルは世界標準
マッケルウェインさんによると、①と②には密接な関係があります。長年改正されなかったのは、9条をめぐって国論を二分する議論が続いてきた政治状況もありますが、短いことが理由だといいます。なぜ短いのかというと、他国の憲法では選挙や地方自治の制度などを具体的に書いていることが多いのですが、日本国憲法では多くの場合「法律で定める」と書かれているためです。ノルウェーでは選挙区まで憲法で定めているそうですから、選挙区割りの変更も改憲しないと実現しません。日本では公職選挙法は60回近く変えていますが、改憲する必要はありませんでした。日本の憲法は、大原則だけを定めて、具体的なことは別途他の法律で決めるという構造になっているわけですね。
また、憲法改正には衆参両院の総議員「3分の2」の賛成が必要です。自民党などは「改憲のハードルが高い」として「2分の1」に下げるべきだと主張しています。しかし、議会による改正手続きを定めている各国の憲法のうち、「3分の2」は78%を占め、「2分の1」は6%に過ぎないそうです。日本国憲法がとくに改正が難しいわけではないのですね。
国会議員選びには問題?
日本国憲法は、長年にわたり改憲・護憲をめぐって激論が繰り返されながらも、一度も改正されずにきました。今日の記事で、そのわけがストンと胸に落ちた気がします。時代に合わない不備や矛盾が憲法にあったとしても、他の法律を改正することで対応し、事足りてきたということですね。
では、これからも憲法を一切変える必要がないのかというと、そういう話ではないでしょう。マッケルウェインさんは、国会議員を選ぶ方法を「法律で定める」として国会議員自身にルールを任せているのは問題だと指摘。改正を検討すべきだと言っています。
たったの103条、読んでみよう
日本国憲法は全103条。明日の憲法記念日に全条文を読んでみてはどうでしょう? かつてしっかり勉強した人も、まだ全文を読んだことがない人もいるでしょうが、世界平均の4分の1以下の短さです。それほど時間はかかりません。
そして、憲法について考えてみましょう。もちろん正解はありません。護憲でも改憲でも構いません。就活で政治志向などをあからさまに問われることはあまりないと思いますが、社会人の第一歩だと思ってトライしてください。自分の意見を鍛えるためのヒントは、他人の意見にあります。今日の紙面には、憲法に関する世論調査結果のほか、読者投稿の「声」欄には読者の意見も載っています。朝日新聞デジタルには、「特集:憲法を考える」のコーナーも。参考に読んでみましょう。
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