ニュースのポイント
石油元売り大手の東燃ゼネラル石油と関西電力は、東京湾岸で計画していた石炭火力発電所を断念すると発表しました。将来、二酸化炭素(CO₂)の排出規制が強まれば、採算がとれないと判断したためです。日本の電源構成とその方向性は時代とともに変わっています。東日本大震災後、コストの安さから石炭火力の建設計画が目白押しとなりましたが、環境問題による規制強化が予想されるため、脱石炭に向かい始めています。(朝日新聞教育コーディネーター・一色 清)
今日取り上げるのは、経済面(9面)の「石炭火力 新設を断念/東燃・関電、採算を不安視/東日本大震災後初、CO₂排出 経営リスク」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
(写真は、宮城県仙台港に建設中の石炭火力発電所)
再生可能エネと原子力を増やす
日本の2015年度の電源構成は、
液化天然ガス(LNG)火力44%、石炭火力31%、再生可能エネルギー(水力含む)13%、石油等火力9%、原子力1%となっています。政府は、2030年には、需要を現状からほぼ横ばいの9808億キロワット時として、その割合を天然ガス27%、石炭26%、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%、石油3%にする目標を掲げています。天然ガス、石炭、石油を減らす一方で、再生可能エネルギーと原子力の割合を増やしていこうという方針です。
(グラフは、2015年4月24日朝日新聞朝刊に掲載された、電源構成のグラフです)
石炭火力の多くは建設されない?
ただ、ここにきて、火力発電所の発電量はそんなに増えないという予測が出ています。アメリカの研究機関は今月、電力需要の減少と再生可能エネルギーの伸びで、2030年に日本国内の火力発電所の発電量は15年比で4割減るとの分析を発表しました。中でも石炭火力は、地球温暖化問題による規制の強化も考えられるため、現在計画されている40基余りの石炭火力発電所の多くは建設されないと予測しました。また、原子力のシェアも政府の見通しの半分以下にとどまるとしています。
石炭の魅力はコスト安
石炭火力の建設計画がこんなに多いのは、「コストが安い」とされているためです。資源エネルギー庁の試算では、原子力が最も安いとされていますが、その次が石炭火力でLNG火力、風力、石油火力、太陽光の順になっています。原子力の再稼働がなかなか進まず、電力の自由化で新規参入が増えていることから、安い石炭火力発電所を作る計画が目白押しとなっているわけです。
環境コストが重荷に
しかし、石炭は、CO₂をたくさん出します。最新型の石炭火力でも、LNG火力の2倍のCO₂が出てしまいます。まして、再生可能エネルギーに比べると、何十倍もCO₂を出すことになります。地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で日本も温室効果ガスの大幅削減を求められています。排出量取引や炭素税など排出に費用がかかる制度の導入も目指しています。こうなると、石炭火力は割に合わない発電になりますし、このまますべての石炭火力発電所が建設されれば日本は温室効果ガスの削減目標を達成できなくなります。このため、建設中止の決断が出始めているのです。
未来を予測することが重要
ビジネスは未来を予測することがとても重要です。電力会社であれば、エネルギーの源となる資源の量や価格はどうなる、環境問題はどうなる、電気の需要はどうなる、人々の意識はどうなる、社会はどうなる、といったことを考え、分析し、今からできることがあれば手を打つことです。電力以外のことも考える余裕と力があれば、新しい分野に進出して成功することができるかもしれません。こうした未来予測はすべてのビジネスに通じることです。一人前のビジネスパーソンになるためには、社会へのアンテナを張って常に未来はどうなると考える姿勢を持つことが必要です。
※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから。