2017年01月27日

TPP消え日米交渉に注目!貿易交渉の「基本のき」

テーマ:経済

ニュースのポイント

 トランプ米大統領は、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱するための大統領令に続き、TPPに参加する大半の国と二国間で貿易交渉をするための議会通告に署名するそうです。貿易のルールを決める機関としては世界貿易機関(WTO)があります。WTOは加盟164カ国・地域で「ドーハ・ラウンド」と呼ばれる貿易交渉をしていましたが、まとまりませんでした。
 そこで、各国は多国間の取り決めの交渉と二国間の取り決めの交渉を並行しておこなっています。一般的に多国間の取り決めの方が、公平性が高く、二国間の取り決めの方が、力関係が反映されやすいと言われます。多国間交渉のTPPが消え、日米の二国間交渉になると、日本にとってより厳しい交渉になるとみられます。貿易交渉は、多くの企業に影響します。基礎的な仕組みや用語は覚えておきましょう。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、1面の「米、貿易交渉『二国間で』 トランプ氏 TPP参加国と メキシコを牽制 会談中止も」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)。

WTOでの交渉は行き詰まる

 貿易交渉の仕組みをおさらいしましょう。まず、WTOでの交渉です。164の国・地域が加盟していますので、超多国間交渉になります。WTOの前身のGATT(関税および貿易の一般協定)時代には「東京ラウンド」「ウルグアイラウンド」などと呼ばれる超多国間交渉がまとまりました。こうした交渉を通じて、世界各国の関税が下がり、自由貿易が進んだわけです。ただ、2001年に始まった「ドーハラウンド」は2008年に決裂し、WTOでの交渉は行き詰まりました。

(写真は1974年に名古屋港で撮影された、輸出を待つトヨタ車です。日本は戦後、貿易を通じて高度成長を実現してきました)

FTAとEPAはどう違う?

 そこで盛んになってきたのが、二国間交渉と多国間交渉です。二国間交渉には、自由貿易協定(FTA)経済連携協定(EPA)があります。EPAのほうが、範囲が広く、投資や人の移動なども協定に含まれます。
 FTAの場合は、モノの関税引き下げやサービス貿易の障壁撤廃に限られます。FTAとEPAについては、日本は現在シンガポールやメキシコなど14カ国と結んでいて、コロンビアとトルコとは交渉中です。多国間交渉は、東南アジア諸国連合(ASEAN)との間で成立しています。交渉中としては東アジア地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)や日EU、日中韓などがあります。
 TPPは、こうした多国間交渉の中で最も規模が大きく、最も自由度の高い協定でした。これがトランプ大統領の登場で成立しなくなるのは、加盟国の経済には痛手です。

(写真は2016年11月、ペルーで開かれたTPP首脳会合です)

アメリカの力に屈するか

 TPPは、経済規模が大きいアメリカ抜きでは発効しません。TPPが消えた後、アメリカは2国間で交渉するという姿勢ですので、日米FTA交渉が始まるものとみられます。アメリカは日本の農業分野の開放を強く求めるはずです。
 TPPでも日本の農業は課題でしたが、12か国も参加していると、アメリカ以上に農業に競争力のある国もあり、アメリカも時には守りに入らなければならず、日本への圧力も弱まりました。しかし、二国間だと容赦なく農業分野の開放を求めることができます。しかも、日本の防衛はアメリカに頼っているという意識がありますので、アメリカの力に押し切られる可能性が高くなります。

(写真は、TPPからの離脱を表明するトランプ大統領です)

これから大きなニュースに

 日本で貿易に無関係な会社はほとんどないでしょう。直接輸出入をしていなくても、自分の会社で使っているものがすべて純国産ということは考えられないほどです。貿易のルールが変われば、モノやサービスの値段や種類も変わります。多くの会社は敏感にならざるを得ません。これからは日米の貿易交渉が大きなニュースになっていくと思います。面接などで話題になる可能性もありますが、基礎的な知識をしっかり自分のものにしておけば、怖くはないと思います。

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