2017年01月11日

自動車・化学・電機…トランプ氏介入に戦々恐々のわけ

テーマ:経済

ニュースのポイント

 メキシコでの生産を増やそうとするトヨタなど日米の自動車大手が、米国のトランプ次期大統領から「とんでもない! 米国に工場を建てるか、国境で高い税金を払え」などとツイッターで攻撃され、米国での投資を増やす方針を次々と表明しています。米国内での雇用増を求めるトランプ氏の批判をかわすためです。企業活動に対する露骨な政治介入ですが、メキシコに工場をもつ日本の化学・電機メーカーにも不安が広がっています。どうしてこんなことが起きるのか。グローバル経済とトランプ氏の「米国第一主義」が衝突する構図をやさしく解説します。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、総合面(2面)「時時刻刻・対トランプ氏 迷う車大手/トヨタ『米で投資1.1兆円』/化学・電機業界も メキシコ増産『影響精査』/日本政府は『米経済への貢献』を強調」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。

ツイッターで攻撃

 トランプ氏は大統領選で「米国第一主義」を掲げ、国内の雇用を増やすことを最重要公約の一つとして当選しました。まだ就任前ですが、ツイッターで自動車大手などのメキシコでの生産増強計画を次々に批判しました。にあるように、フォード・モーターなどが新工場計画撤回や、米国内での生産増強、雇用拡大を発表しています。

 日本メーカーではトヨタが名指しで批判されました。トヨタはメキシコでの工場新設と、すでにある工場の増強を決めていました。米国での生産台数や雇用が減ることはないのですが、2工場を混同した誤解をもとに攻撃を受けました。トヨタは新工場建設は撤回しないものの、豊田章男社長が今後5年で米国に100億ドル(約1兆1500億円)を投資すると説明。「これまでの60年間で米国に220億ドルを投資」「30年以上にわたり、2500万台以上の車を生産してきた」などと米国経済への貢献をアピールしました。

メキシコとNAFTA

 日米などの多くの企業がメキシコの工場で生産しているのは、米国、メキシコ、カナダの3国による「北米自由貿易協定(NAFTA=North American Free Trade Agreement=ナフタ)」があるからです。NAFTAが始まった1994年以降、人件費が安く、関税なしで輸出できるメキシコに工場を移転する企業が相次ぎ、メキシコは米国向けの自動車の生産拠点となりました。2015年の米国の対メキシコの貿易収支は約610億ドル(約7兆円)の赤字です。このため、トランプ氏はメキシコに雇用を奪われたとして、米国外に工場を移転した企業が米国向けに製品を輸出する場合、35%の高関税をかけると主張。世界貿易機関(WTO)の協定違反にもなりかねないため実現は簡単ではありませんが、NAFTAの見直しも訴えています。

 を見てください。トヨタだけでなく、日産、マツダ、ホンダもメキシコに工場を持ち、2016年1~11月の日系メーカーの生産台数は約130万台と4年前より7割も増えました。うち半分は米国へ輸出されていますから、さらにトランプ氏の標的になるかもしれないと戦々恐々としています。経済で国境がなくなるグローバル化と「米国第一主義」がぶつかっている形です。

三井化学、三菱電機、日本電産も

 自動車だけではありません。今日の記事では、以下の企業の例を紹介しています。
◆三井化学=メキシコに自動車のバンパーなどをつくる原料工場を持ち、今年夏に生産ラインを増やす予定
◆三菱電機=メキシコ工場から主に米国に輸出している。米国市場は小型エアコンが好調で、数年で生産台数を現在の2倍の年間40万台にする計画
◆モーター大手の日本電産=永守重信会長兼社長が「(自動車メーカーなどの)顧客が米国に移るなら、(メキシコから)米国の工場に生産を移せばいい」と柔軟に対応する姿勢を示す

 トランプ氏の政治介入について、経済産業省の幹部は「高関税をかけることよりも、脅しをかけて米国への投資を呼び込むことが狙いなのでは」と語っています。ただ、もし高関税などの保護主義的な政策が現実になれば、メキシコから米国への輸出が減り、日本経済を支える自動車産業を中心に大きな打撃を受けるかもしれません。トランプ氏の言動から目を離せません。

 過去の「政治と企業」の関係については、業界研究ニュース「企業はトランプ氏にひれ伏す?」を読んでください。

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