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万博が大阪に――? 大阪府が、2025年に国際博覧会(万博)を誘致しようとしています。政府の菅官房長官も「大阪のため、日本のため、誘致は一つの大きな起爆剤になる」と前向きです。日本はかつて、1964年に東京オリンピックを行い、1970年に大阪万博を開き、大成功を収めました。「夢よ、もう一度」ということのようです。経済や雇用にも大きな影響がある話なので、万博の行方に注目してみましょう。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、4面の「大阪万博誘致 政府も前向き 菅長官『起爆剤に』」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
どうして開きたいの?
どこの国でも、オリンピック(五輪)のあと不況になることがよくあります。五輪に向けて膨らんだ需要が急にしぼむからです。それを避ける対策として、数年後に万博を開こうとするのです。
日本では1964年東京五輪→1970年大阪万博、韓国では1988年ソウル五輪→1993年大田万博、中国では2008年に北京五輪→2010年上海万博、という具合です。日本の場合は高度成長真っ盛りの頃。「人類の進歩と未来」をテーマにした大阪万博は、想定の倍以上の6241万人もの入場者があり、盛り上がりました。今でも、日本が最も元気があった時代の象徴として懐かしがられています。
(写真は、1970年の大阪万博の空撮です)
どんなイベントなの?
万博は「国際博覧会条約」に基づいたイベントで、開くには政府が博覧会国際事務局に申請し、加盟国の総会で承認されなければなりません。
万博には、大規模で総合的な内容の「登録博」と規模が小さくテーマが限定的な「認定博」の2種類があります。日本で開かれた万博のうち、大阪万博と愛知万博は登録博(かつての一般博)で、沖縄海洋博、つくば万博、大阪花博は認定博(かつての特定博)でした。
今回考えられている大阪万博は登録博なので、前回の大阪万博のように半年くらいの会期をもうけ、数千万人の入場者を見込む大きな博覧会になりそうです。
(写真は、2005年の愛知万博へのカウントダウンに向けて、名古屋駅前に設置されていたボードです)
課題はあるの?
財政的なリスクはあります。2005年の愛知万博は1900億円ほどの事業費で、100億円ほどの黒字が出ました。ただ、大阪はもっと規模の大きな博覧会を考えるでしょうから、事業費はもっと大きくなると思われます。
海外からの旅行客が増えているのは明るい材料ですが、人口減少で消費低迷の時代ですし、イベントがたくさんある時代でもあります。黒字が約束されているわけではありません。前回の大阪万博のイメージに引きずられて似たようなコンセプトの万博になると、失敗する恐れもあります。「いかに成功体験を忘れるか」がポイントかもしれません。
就活生注目のポイントは?
今の政権は、1960~1970年代の日本の姿に戻したがっているようです。東京五輪、大阪万博とくれば、次に考えるのは1972年にあった札幌五輪の再現です。実際、札幌市は2026年の冬季五輪に立候補しようとしています。大阪や札幌がこの先一時的に元気になる可能性はかなり高いと思います。イベント関連や旅行・観光業界などに加えて、こうした地域に縁の深い企業は追い風を受けるでしょう。
ただ、かつての日本はこうした流れののち、失速してしまいます。1980年ごろには「ジャパン アズ ナンバーワン」と世界で言われるようになりますが、その座は短かった。バブル経済に突入して破裂すると、「失われた20年」という長い低迷のトンネルに入るのです。
「歴史は繰り返す」と言いますが、マルクスはこの後「最初は悲劇として、2度目は喜劇として」と言っています。つまり、同じようには繰り返さないのが歴史だということです。私たちも、再び日本が最も元気だった時代がやってくるような錯覚を持たず、冷静に時代を見る目を養いましょう。
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