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「日本の台所」とも呼ばれ、観光地にもなっている東京都の築地市場。その豊洲市場への移転が、引っ越し直前になって延期されました。7月末の都知事選で圧勝した小池百合子都知事は、就任後初の都議会で、移転問題について「都民の信頼を失った」と述べました。6000億円近いお金をつぎ込んでできあがった豊洲市場は、どうして信頼を失ったのでしょうか。
(朝日新聞社教育コーディネーター 一色清)
今日取り上げるのは、1面の「豊洲問題『信頼失った』 小池知事、情報公開を強調」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。写真は、築地市場(手前)と豊洲市場(奥)です。
どうして移転するの?
築地市場は、今から81年前の1935年に開場しました。現在の施設は古く、しかも狭くなっています。移転や建て替えの議論は1980年代からありましたが、仲卸業者の反対などで進まず、1991年から築地での建て替え工事が始まりました。しかし、仕事の邪魔になるとの批判があり、整備費も膨らんだことから1996年に中断しました。
移転の議論が再燃し、1999年に石原慎太郎氏が知事になると、移転の動きが加速。2001年に、移転場所として豊洲が決まりました。
①築地の倍近い広さが確保できること
②築地に近い
③交通アクセスがいい
の3点を評価した結果でした。
(写真は1998年11月6日の朝日新聞夕刊。築地市場関係者の間でも意見がわかれていることを伝えています)
なぜ時間がかかっているの?
豊洲市場の土地には、かつて、東京ガスの工場がありました。石炭から都市ガスを作っており、その過程でヒ素を使ったため、土壌には発がん性物質のベンゼンやシアン化合物が含まれていました。
この汚染は東京ガスがきれいにしたはずでしたが、2007年の都の専門家会議の調査で環境基準をはるかに超えるベンゼンが検出されました。そこで、専門家会議は地表から深さ2メートルまでの土を入れ替え、その上に2.5メートルの盛り土をすることを提言し、2014年に提言通り盛り土が終わったことになっていました。
こうして、建物もほぼ完成し=写真=、今年11月7日に移転することになっていたのです。
どうして大問題になっているの?
しかし、移転を問題視する小池知事が就任し、状況が一変しました。8月には「地下水のモニタリング調査が終わっていないのに移転するのはおかしい」として、移転延期を決断。この段階では、市場関係者や都議などから「移転のためにお金をかけているのにどうしてくれるんだ」といった反発も出ていました。
ところが、9月になって新たな事実が分かりました。建物の下は、盛り土がされておらず、空洞になっていたのです。これまで都議会での説明や都民向けの施設の紹介図などでも、すべてに盛り土がされているようになっていたので、驚きと怒りが広がりました。そして、どうしてこんなことになったかの経緯や原因、責任の所在などの検証が始まっているのです。
(写真は、報道陣に公開された豊洲市場の地下施設)
ほかにも問題はあるの?
整備費が6000億円近くまで膨らんだことや、ゼネコンの落札金額が予定価格のほぼ100%であることにも、疑惑の目が向けられています。都や政治家がゼネコンとなれ合って、整備費が高くなり、その分不当なお金の流れがあったのではないかという疑いです。
こちらは、まだ疑いの目が向けられている段階でしかありませんが、都民の強い不信感につながっています。
結局、どうなりそうなの?
6000億円近いお金をつぎ込んで作ったものですから、安全性の確認がとれれば移転すると普通は考えられます。ただ、この問題は「食」にかかわることです。普通の考えと違う結論になることもありえます。
食は、消費者の気持ちに左右されます。築地ブランドなら、おいしそうという気持ちになりますが、豊洲ブランドは、体によくなさそうという気持ちになるかもしれません。長い目で見れば、ブランドの失墜によって6000億円以上を失うと市場関係者や都民が考えれば、豊洲には移転せず、今の築地での建て替えや別の場所を探すこともあり得ます。「小池知事のパフォーマンスに過ぎない」と甘く見ないほうがいいと思います。
(写真は、都議会で演説する小池知事)
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