ニュースのポイント
天皇の地位から「生前退位」の意向を周囲に示していた天皇陛下が、ビデオメッセージで自らの思いを国民に直接語りかけました。82歳という高齢になり、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが難しくなるのではないか」と述べ、天皇の位を皇太子さまに譲る将来的な退位の願いを強くにじませる内容でした。高齢化の時代、お気持ちを尊重して実現すべきだとの賛成の声が上がる一方、慎重論も根強くあります。憲法で「日本国民の総意に基く」と定められた天皇の地位に関する問題です。自分の意見を言えるように考えてみてください。
「今日の朝刊」は夏休みのため明日から休載し、18日に再開する予定です。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面トップの「天皇陛下 お気持ち表明/『象徴の務め 難しくなるのでは』/退位の願い にじむ」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。各面に関連記事が載っています。
メッセージを見てみよう
ビデオメッセージは見ましたか? 下の朝日新聞デジタルのリンクから見ることができます。
憲法は、天皇の皇位が政治動向に影響を及ぼすことがあってはならないと定めているため、「退位」という言葉は使わず、現行制度の見直しについても触れませんでしたが、「私が個人として」と強調して思いを率直に語りました。ポイントは「メッセージの骨子」を見てください。
今の憲法のもとで初めて即位した天皇陛下は、象徴天皇のあるべき姿を追求してきたと言われています。
国事行為以外の外国訪問、被災地のお見舞い、戦災地慰霊の旅など、国事行為以外の「公的行為」を積極的に行ってきました。しかし高齢になり、今後こうした象徴としての務めを果たせなくなることを心配しています。さらに、大きく健康を損なったときの社会の停滞や国民の暮らしへの影響についても懸念を表明しました。昭和天皇が1年半にわたって闘病した際には、行政も国会も滞り、全国が自粛ムードで覆われたことが念頭にあるようです。
世論は84%が生前退位に「賛成」
メッセージを受けて安倍首相は「天皇陛下のご心労に思いをいたし、どのようなことができるのかしっかり考えていかなければいけない」と話しました。ただ、生前退位には
皇室典範の改正が必要なうえ、賛否両論があり、実現は容易ではありません。今日の記事などから、主な意見を整理してみます。
賛成論は、メッセージの内容を尊重する意見が多いようです。
・天皇陛下が率直な思いを語られたのだから、お気持ちに応えるべきだ
・社会の進化で、求められる象徴の姿も変わる
・象徴といえども一人の人間として人権やその思いは尊重されるべきだ。国事行為の臨時代行、
摂政(せっしょう)を含めて議論し、必要があれば皇室典範を改正すべきだ
朝日新聞が6、7両日に行った全国世論調査では、生前退位の制度化に84%が賛成、反対は5%で、世論は支持が圧倒的多数でした。
(写真は熊本地震の被災者に声をかける天皇陛下)
権力闘争を心配する意見も
一方の慎重論の主な意見は――。
・退位後の天皇が「上皇(じょうこう)」などとして権威を持ち続けたり、それを利用したりする者が出てくる心配がある。新旧天皇が政治的な権力闘争に巻き込まれる懸念も
・天皇より上の立場の人ができ、憲法の理念に反するのでは
・新旧天皇が同時に存在すると、国民の精神的な統合に支障を生まないか
・天皇が恣意(しい)的に退位したり、強制的に退位を迫られたりする可能性がある
・天皇の意向で政治が動くのは現憲法に反する
・生前退位(譲位)の自由を認めると、その後の後継者が即位を辞退することも認めるのかという議論になる可能性がある
これから本格的な議論が始まります。自分なりの意見を持てるようにしてください。天皇の生前退位については、「『天皇陛下退位の意向』なに、なぜ、どうなる?」(7月14日の今日の朝刊)でも書きました。こちらも読んでみてください。
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