ニュースのポイント
南シナ海のほとんどを自分の海だという中国の主張について、国際的な裁判所が根拠がないと断じました。中国は反発していて、周辺国や米国などとの緊張が高まりそうです。南シナ海の
領有権問題を整理します。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面トップの「南シナ海 中国の権利否定/独自境界『法的根拠なし』/仲裁裁判判決/人工島 正当性認めず/中国、受け入れず」です。1面の「天声人語」、総合面(2面)の「時時刻刻・9段線『違法』 中国は猛反発」のほか、3面、10面、11面、14面にも関連記事が載っています(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)。
南シナ海問題って?
地図を見てください。南シナ海は中国の本土の南、台湾、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナムに囲まれた海で、各国が領有権などの権利を主張して対立しています。中国はここに「9段線」(地図上の赤い9本の線)を独自に引き、「中国人民の南シナ海での活動は2000年余りの歴史がある」として、その内側に主権があると主張。周辺国ではその形から「牛の舌」「中国の赤い舌」と呼んでいます。
豊かな漁場であるうえ、海底には石油や天然ガスなどの資源があるとみられています。中国は近年、南沙(スプラトリー)諸島の岩礁や浅瀬を埋め立てて人工島を造り、軍事拠点化を進めているといわれます。
「9段線」に根拠なし
フィリピンは2013年、中国の主張は国連海洋法条約に違反するとして提訴。オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が12日、「(中国がこの範囲の海域を)排他的に支配してきた証拠がない」として、「9段線」には「法的な根拠がない」とする判決を出しました。中国が埋め立てた人工島も含め、中国が南シナ海の大半において一切の権限を持つことはできないと判断。フィリピンの主張をほぼ全面的に認めました。
ただ、判決の内容を強制的に実現する手立てはありません。判決を受け入れないと表明した中国は引き続き実効支配を進める構えです。
「島」じゃなくて「岩」
国連海洋法条約では島なら周囲12カイリ(約22キロ)を「
領海」とし、他国の漁や上空飛行が認められない範囲にできます。200カイリ(約370キロ)以内の「
排他的経済水域(EEZ)」では資源探査や人工島設置などの権利を持ち、EEZの海底にあたる「
大陸棚」でも開発ができます。でも、「岩」なら領海しか認められず、干潮時にしか海面上に見えない「低潮高地(ていちょうこうち)」や人工島にはいずれの権利もありません。今回の判決は、「(南沙海域に)EEZと大陸棚をもつ『島』はない」と判断。中国は七つの岩礁を埋め立ててきましたが、これらも島ではなく「低潮高地」や「岩」で、中国には周辺の天然資源探査などの権利はないとの結論です。
日本にとっても、ひとごとではありません。日本政府は「仲裁裁判は紛争当事国を法的に拘束し、当事国は今回の判断に従う必要がある」と、中国を牽制しました。南シナ海は海上交通の
要衝(ようしょう)。日本と中東を結ぶ重要な海上交通路(
シーレーン)で原油輸入量の8割は中東から運ばれていますから、万が一紛争が起きてタンカーが通れない事態になれば、日本のエネルギー供給に大きな影響を与えます。中国の対応は、日中間の
尖閣諸島問題にも関係してきます。
判決に反発している中国は強硬姿勢を続けるのか。フィリピンや、中国を批判してきた米国の対応は? 関係国間で対話が行われるのか……。これからたびたび報じられる関係各国の動きに注目してください。
米中の対立については「南シナ海で米中対立!何が起きてるの?」(2015年10月28日の今日の朝刊)をご覧ください。