ニュースのポイント
参院選の結果、自民、公明、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の4党・会派や一部の無所属議員による、いわゆる「改憲勢力」が非改選議員を含めた参院全体の「3分の2」を占めました。衆院はすでに改憲勢力の議席数が「3分の2」を超えています。今回の選挙で、衆参ともに憲法の改正発議に必要な議席数を得たことで、安倍首相は、「憲法審査会で議論が収斂(しゅうれん)していくことが期待される」と、具体的な改憲議論を進めたい考えを示しています。これからの改憲議論を正しく理解するためにも、まずは「3分の2」の重要性をおさらいしておきましょう。(副編集長・奥村 晶)
今日取り上げるのは、オピニオン面(19面)の「10・20・30代の参院選 座談会/18歳選挙権 意識は高めた 佐藤さん/『3分の2』知らぬ子多い 那須野さん」です。総合面(2面)で連載がスタートした「改憲勢力『3分の2』のゆくえ(上)/首相 改憲議論を本格化へ/具体論では各党にばらつき/争点化避け着々と足場」や社会面(39面)「『3分の2』どうみた?/改憲派『理解進んだ』歓迎/護憲派『重大局面』と警戒」なども関連した記事です(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)。
「3分の2」という数字、浸透していない?
今日の朝刊には「3分の2」という言葉が見出しに含まれる記事が5本もあります。記事本文を含めたら、「3分の2」という言葉がいくつ掲載されているのか、数えるのが難しいほどです。
一方で、座談会で、東京大学先端科学技術センター助教で政治学者の佐藤信さん(28)は、「『3分の2』という数字が人びとの間にどの程度浸透しているのか、非常に疑問です。ちゃんと争点になったのか」と話します。大阪大学準教授で経済学者の安田洋祐さん(36)はこう話します。「テレビは選挙前、3分の2についてはほとんど何も言っていなかった。それが投開票日の翌朝、新聞やテレビで一斉に出てきて、多くの有権者は驚いていると思う。えっ、自分が投じた一票は、これにつながっているのか、そうなら事前に教えてくれよ、と」。大妻女子大1年の那須野純花さん(18)は、「友だちにも聞いたんですよ。3分の2って何のことかわかる?って。知らない子が多い。選挙に関心をもってないのに、いきなり3分の2っていわれても、何をいっとるんじゃい、みたいな感じですね」と言います(写真は那須野さん)。
与党が「改憲」を語らない理由
なぜ、「3分の2」が浸透しなかったのか。選挙戦では、「改憲許さない」と多くの野党が「3分の2阻止」を訴える一方、与党側が改憲、そして「3分の2」という数字に言及することはほとんどありませんでした。改憲を悲願とする安倍首相も、街頭演説で一度も憲法改正を語りませんでした。その理由をテレビ番組で問われると「(憲法改正は)選挙公約にも書いてある」と答えています。
首相周辺は「うかつに憲法改正の具体論に触れて国民の反発を招けば、二度と改正ができなくなる」といいます。反発を招く恐れがあるものは積極的にはアピールしない、でも公約には入れてあるのだから、我々に投票した人は憲法改正も含めて政策を支持したものとみなす、ということです。2014年12月の衆院選でも改憲にはほとんど言及せず圧勝しました。争点化を避ける作戦が2回続けてうまくいったわけです(写真は佐藤さん)。
国民投票があるから安心? それとも手遅れ?
改憲勢力が3分の2を超えたとはいえ、どんな内容の憲法改正をするのか、その中身は改憲勢力の中でも足並みがそろっているわけではありません。国民投票の前に、国会の憲法審査会で、改正原案を審査します。委員は衆参の各党の議席数に応じて配分されます。衆参各院の審査会が過半数で可決した後、さらに本会議で3分の2以上の賛成によって改正が発議されます。
解散・総選挙がない場合、2018年末に衆院は任期満了を迎えます。「衆参3分の2」が保証される期間は残り2年余りですから、それまでに国会発議に至るかどうかが注目されます。さらに国民投票で過半数の賛成が必要ですから、いずれにしても平和憲法の根幹をなす第9条など、反発が予想される部分からではなく、各党が納得しやすく、国民の理解を得やすい内容から手を着けることになるでしょう。当然、提案者側である与党からは改憲のメリットについて声高に語られるに違いありません。そのとき、放っておいても目や耳から入ってくる情報の受け手になるのではなく、「語られない」部分、デメリットについての情報をいかにして自分からつかみとるか、その知見が国民に問われています(写真は安田さん)。
自分の政治的ポジションを知ろう!
まずは日本国憲法を読み、自民党草案をはじめ、改憲勢力がそれぞれ、憲法のどの条文をどのように変えようとしているのかをチェックしてみてください。就活で政治的志向があからさまに問われることは少ないでしょうが、自分の政治的ポジションを持たない人間は、国際社会では信頼されません。グローバルな仕事を目指す人はもちろんのこと、社会人としての第一歩と思って、政治的な視点を鍛えましょう。
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