2016年07月08日

無人バス、千葉で初運行へ AIにはできない仕事考えよう(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:科学技術

ニュースのポイント

 ゲーム大手のディー・エヌ・エーが無人運転バスを来月から走らせると発表しました。無人運転は自動車メーカーやIT企業が競って開発を進めている分野ですが、実際にお客さんを乗せて走らせるのは、日本で初めての試みです。
 ディー・エヌ・エーの狙いは、将来の無人運転時代のトップランナーになることです。ディー・エヌ・エーは、すでに「ロボットタクシー」という名の無人タクシー運行会社を作っていて、2020年までに実用化したい考えです。まだ安全性の確認や法律の整備ができていませんが、政府の後押しもありますので、2020年代には実現するのではないでしょうか。人間の仕事の半分は人工知能(AI)で代替可能になる、とは昨年末の野村総合研究所のリポートでしたが、無人運転時代になると運転手という仕事がなくなることになります。仕事選びの際は、人工知能ではできない仕事かどうかを考えなければならない時代になりました(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)。

 今日取り上げるのは、総合面(6面)の「無人バス 来月から運行へ/日本初/千葉・SC隣の公園で」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。(画像は無人運転バスシステムに使う車両のイメージ=ディー・エヌ・エー提供)

自動運転と無人運転は違うの?

 人が運転しなくても車が勝手に動いて目的地まで連れて行ってもらえる技術を「自動運転技術」と言います。アメリカのグーグルなどが先行していて、すでに公道実験もおこなっています。ただここで、注意しないといけないのは、この技術は目的によって社会に与えるインパクトが大きく違うことです。目的は二つあります。交通事故の防止とコスト削減です。自動運転という言葉を使った場合は、どちらに重きを置いているのかあいまいです。運転手はいるのだけど、運転手をサポートして止まったり曲がったりする技術を言っている場合が多いようです。
 この技術ならば、今でも公道での実験ができます。交通事故が少なくなるというメリットはもちろん大きいのですが、社会を激変させるほどのインパクトはありません。ただ、産業界の最終目的はコスト削減、つまり「無人運転」です。人の移動や物流のための人件費はこれからもかさむ一方だと予測されます。そのコストを無人運転で軽くしようというわけです。ですから、社会を大きく変えるのは無人運転だといえます。ただ、この実験はまだ公道ではできませんので、ディー・エヌ・エーも私道で行うことにしています。

米テスラ車、自動走行中に死亡事故も!

 今日の経済面(12面)には「テスラ車また事故か/米当局/自動走行との関連調査」という記事が載っています。テスラはアメリカの電気自動車ベンチャーで、自動運転にも積極的です。このテスラ車が運転手をサポートする形の自動走行中に死亡事故や負傷する事故を起こしていたという記事です。自動走行の安全性が確認されないうちは無人運転などもってのほかでしょうから、実用化は少し足踏みすることになりそうですが、ただいずれ実現するのは間違いないと考えられます。

専門家の議論は「技術」から「倫理」へ

 囲碁でグーグルが開発した「アルファ碁」が世界最強とされる韓国のプロに勝ったように、人工知能の進歩はここにきてスピードアップしています。無人運転のように、少し前までは遠い将来の話と思われていたことが、現実味を持ってきました。
 
 人工知能に関する最近の議論は、人間がこれまで作ってきた社会を壊さないようにするために倫理的規制をどうすればいいのか、というものに重点が移っています。最先端にいる人たちが、そういう心配を真剣にし始めたというのは、人工知能社会が目前に来ている証拠だと思います(写真はシンガポールで実験用に使われている無人運転自動車)。

人工知能に奪われる100の職業

 昨年末に発表された野村総研の「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」というリポートには、10~20年後に人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業が書かれています。そこには、さまざまな分野の事務員や工員、さまざまな乗り物の運転手とか店員、受付係とか銀行の窓口業務などがズラッと並んでいます。言葉で表すと、「特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業」が人工知能にとって代わられやすいのだそうです。

人間でないとできない職業は?

 ちなみに、新聞記者は100の職業の中に入っていませんでしたが、アメリカではすでに定型の記事はデータを打ち込むと人工知能が書けるレベルになっているのだそうです。通訳や翻訳も、音声認識のレベルが急速に上がっていて、人工知能が実用化できる時期は遠くないといわれています。となると、人間でないとできない仕事の範囲はどんどん狭まります。野村総研は「芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業」は、当分人間でないとできないとみています。自分のやりたい職業はこの物差しにあてはまるかどうか、考えてみましょう。

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