2016年06月08日

チキンが世界を救う⁉ 三井物産の事業強化に注目

テーマ:経済

ニュースのポイント

 三井物産が鶏肉関連の事業を強化します。鶏の成長に不可欠な「メチオニン」という栄養素の増産です。聞き慣れない名前ですが、同社が掲げる「世界の食糧問題の解決に寄与する」ことにつながるとか。一体どういうことでしょう?(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、経済面(6面)の「鶏肉関連の事業 三井物産が強化/非資源分野に注力」です。
 記事の内容は――三井物産はメチオニンをつくる米国の工場の生産能力を2020年に約4割増やす。世界の人口増加や新興国の経済発展による鶏肉の需要拡大を取り込み、注力する非資源分野で安定的に収益を得られる事業の柱としたい考えだ。メチオニン生産で世界シェアの約3割を占める傘下の「Novus(ノーバス)」(米ミズーリ州)に新たなプラントを建設、投資額は700~800億円の見込み。鶏肉は宗教的タブーが少なくヘルシーなイメージもあるため、新興国だけでなく先進国でも需要が伸びている。農林水産政策研究所の推計では、世界の消費量は2012~14年の平均の8840万トンから、25年には1億1310万トンに増える見通し。エサにメチオニンを加えると、鶏の育成期間が大幅に縮まり体格も良くなるため、現在約110万トンの世界のメチオニンの生産量も年5~6%増えている。安永竜夫社長は「世界的な健康志向で、鶏肉の需要は今後も着実に伸びる」と意欲を見せる。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 メチオニンをめぐっては、5月20日の朝日新聞の愛媛県の地域面に、住友化学が新居浜市の愛媛工場にメチオニンを作る設備を増設するという記事が出ました。メチオニンは動物が成長するために必ずとらなければならない「必須アミノ酸」の一つ。化学的につくるには高度な技術が必要で、主要4社が世界シェアの9割を生産しています。2位がノーバスで住友化学は4位。トップはドイツ、3位は中国の企業です。

 三井物産は「世界の食糧問題の解決に寄与する」と題するホームページでノーバスについて説明しています。概略は――2050年までに世界の人口は96億人になると予想され、現在の2倍の食糧が必要に。食糧増産には畜産物の生産効率の改善が不可欠だ。期待されているのが鶏、豚、牛などの家畜の成長を促進し、増産に大きな効果を有する飼料添加物で、代表的なものがメチオニン(商標名「アリメット」)。メチオニンはとくに鶏の成長促進に効果をあげている。メチオニンが飼料に添加される前の1950年代、出荷時の平均1.4キロの体重になるのに約120日かかったが、2009年には出荷に必要な日数は42日程度と3分の1に短縮され、出荷時の体重は平均2.6キロに倍増した。ブロイラーの品種改良などとともに、飼料添加物導入による栄養効率の上昇も大いに寄与している。

 新興国や途上国が経済発展すると肉を食べる人が増えて、食肉の需要が急増すると予想されています。イスラム教徒は豚肉を、ヒンズー教徒は牛肉を食べませんが、鶏肉ならいずれの信者にも問題ありません。先進国でも健康志向の高まりから、ヘルシーといわれる鶏肉の消費が増えるとみられています。このため、鶏肉の増産が「世界の食糧問題の解決」につながると期待されているわけです。

 三井物産の現状については、「花形分野に永遠なし 三井物産、戦後初の赤字転落」(3月24日の今日の朝刊)、「『組織の三菱、人の三井』だけじゃない!5大商社の強みと個性を把握しよう」(3月25日)で書きました。今回の動きは、資源部門への過度な依存から脱する試みの一つでもあります。
 一つのニュースから、世界の食糧事情、そこに貢献する商社の役割、商社の事業分野の改革……いろんなことが読み取れますね。

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