ニュースのポイント
保育所に入れない待機児童が大きな問題になっています。すぐに頭に浮かぶのは、「保育所をもっと作ればいいのに」という考えですが、実は、保育所があっても保育士がいなくて十分に受け入れられないという実態があるようです。保育士はどうして足りないのかというと、給料が安いというのが一番大きな理由のようです。ならば給料を上げればいいとすぐに思うのですが、国は「お金がない」といいます。なかなか答えの見つからない問題ですが、自分自身の頭でどうすれば待機児童の問題を解決できるのかを考えることは、就活生にとって社会に目を向け、社会を知る上でとてもいい訓練になると思います。
今日取り上げるのは、2面の「保育士足りない/保育所空きはあるのに入れない/受け入れ制限次々/待遇改善に財源の壁」です。
記事の内容は――保育士が足りず、子どもの受け入れを制限した結果、定員割れに陥る保育所が相次いでいる。待機児童が問題になるなかで施設を増やす一方、保育士の処遇改善が進まず、人材が定着しないことが原因だ。政府は処遇改善や経験者らの現場復帰策を打ち出すが、どの程度の効果があるかは不透明だ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
待機児童の問題は、様々な形で就職と関係します。いつか結婚し、子どももほしい、と考えている就活生は多いと思います。その場合、いずれ自分も直面する問題として考えておいてムダはありません。あるいは、自分自身の就職先や起業業種として保育業界を考える人もいるでしょう。それならば、もっと真剣に業界研究をする必要があります。自分のこととして考えるには切迫感がないという人は、待機児童問題はどうすれば解決できるのかをあれこれ考えて、頭の体操をしてみてはどうでしょう。企業が最近求める人物像は課題解決型の人間だそうですから、就活に役立つかもしれません。ここでは、みなさんの頭の体操に役立つように、私の頭の体操を書いてみます。
待機児童問題の根本は保育士不足にあるようです。「それなら育成すればいい」と思うでしょうが、資格を持っている保育士の数が足りないわけではありません。実際に働いていない潜在保育士は全国で80万人もいます。実際に働いている保育士は40万9000千人(2013年現在)で、2017年度末までに待機児童を解消するという目標にはあと9万人の保育士が必要だそうです。でも9万人は、潜在保育士80万人の約9分の1ですから、今主婦だったり別の仕事をしていたりする潜在保育士の9人に1人が保育の仕事をすれば足ります。
数字的には簡単そうですが、そうならないのは、保育士の給料が安いからです。民間保育所の保育士の給与の平均月額は21万9千円で、全職種の平均月額より約11万円低いそうです。どうして安いのかは分かりませんが、かつては「子どもと遊んでいればいい楽な仕事」で、「若い女性が結婚前にする仕事」とでも考えられていたのではないでしょうか。実態は、年々保育時間は不規則で長くなり、求められる保育のレベルも負わされる責任のレベルも上がり、安い給料では割に合わなくなっているのです。
景気がよくなればよくなるほど、割の合わなさははっきりしてきます。他の仕事の待遇がよくなってくるからです。しかも景気がよくなれば、働きに出る女性が増えますので、保育士不足にますます拍車がかかるというわけです。
解決策は誰でも分かります。保育士の給料を上げることです。政府も月額5%給与を上げる方向でいますが、3%の改善までしかめどが立っていません。2%分にあたる約400億円の財源の確保ができていないためです。でも仮に5%の改善をしたところで月額1万円上がるだけです。それすらもできないというのですから、待遇改善は茨の道です。他の予算を削って月額数万円規模の待遇改善をすれば少しは状況が改善するのでしょうが、政府がそこまでの優先順位で考えているとはとても思えません。
少子化は進んでいます。主にフルタイムで働いていない親の子どもが入る幼稚園は、児童不足で経営が苦しいところが増えています。それで、保育所の機能もあわせもった認定こども園の制度ができ、年々増えています。幼稚園の先生が保育士としても働けるのは、保育士不足の解消の一翼を担うことになるいい制度だと思います。この制度をもっと活用するようにするのも一案です。ただ、待機児童問題が深刻な都市部には、交通の便のいいところにある幼稚園が少ないのが難点でしょうか。
バウチャー制度といって、補助金との引換券を未就学児のいる家庭に配るのがいいと言う人もいます。この場合、保育所は民間が簡単に設立できるようにします。家庭は、保育所や幼稚園を選んで、選ばれた保育所や幼稚園は引換券を受け取って国、あるいは地方自治体から補助金をもらうわけです。場所や設備や保育の質が悪い保育所は選ばれないので、よくない保育所は淘汰されます。人気のある保育所は、高い給与で保育士を雇えますので、保育士不足も解消できるかもしれません。ただ、かなり市場経済に任せたやり方で、保育とか幼児教育といった福祉の要素のある分野になじむのか、疑問視する人もたくさんいます。
外国人の保育士に来てもらうしかないという意見もあります。すでにベビーシッターとして日本で働いている外国人はいます。フィリピンなどの東南アジア系の人が多いようです。東京・広尾あたりを天気のいい日に歩いていると、東南アジア系の女性が欧米系の赤ちゃんを乗せたベビーカーを押している光景を見ることができます。保育士の資格の取得をやさしくして、こうした外国人に日本に今より多く来てもらって働いてもらうというのもアイデアの一つでしょう。
こんなふうに考えていくと、待機児童問題を解決するためのアイデアはいろいろと出てきます。何が正解かは私にも分かりません。ただ、ああでもないこうでもないと考える癖をつけることは、企業が求める課題解決型人材になる近道だと思います。
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