ニュースのポイント
就職のための面接で違法な質問が投げかけられることがあります。「お父さんの職業は?」というよくありそうな質問も職業安定法違反になります。このほか、入社前に必要事項の説明なく一律に健康診断を実施することも公正な採用選考に反するそうです。ほかにも問題なさそうにみえる質問でも、就職差別につながる恐れのあるものもあります。面接者は注意が必要ですし、学生はそうした質問があれば、各学校の就職課などに報告して企業側に改善を求める動きを起こすのがいいようです。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、23面の「面接で違法な質問ダメ/学生の人権守れ 大阪で大学・行政連携/家族や本籍 報告多く/独自では限界『国レベルで』」です。
記事の内容は――2017年卒の大学生の就職活動解禁まで1カ月を切った。採用面接は昨年より2カ月早い6月から。ただ、面接では違法な質問を投げかけられることもまだまだある。大阪では就職差別から学生を守るため行政と大学が連携。昨年春からは学生からメールでの報告も受け付け、対策を強化している。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
記事に掲載されている「面接などで質問することが『公正な採用選考』に反する事例」では、
▽本籍や生い立ち、出生地に関すること
▽家族構成や家族の学歴・職業・地位・収入など、家族に関すること
▽住宅状況、生活環境・家庭環境に関すること
▽宗教に関すること
▽思想・信条に関すること(支持政党、尊敬する人物、社会運動、購読新聞、愛読書など)
▽女性についてのみ、結婚・出産後も働くことの意思を質問する
▽男性についてのみ、または女性についてのみ、残業、休日出勤、転勤などが可能か質問する
▽男性または女性を敬遠しているかのような質問・発言をする
▽戸籍謄(抄)本の提出を求めること
▽身元調査を行うこと
▽採用選考時に、具体的な必要理由の説明なく、画一的に健康診断を実施すること(以上、関西大学の冊子より抜粋)
が挙げられています。
面接をする側になったこともある身としては、「あれ、こんな質問をしたことがあるかもしれない」とぎくっとしました。例えば、尊敬する人物とか愛読書とかを聞くのがいけないとは思いませんでした。目の前の学生がどんな人を尊敬しているかとかどんな本が好きかは、人柄のひとつの表れとして知りたいと思うのは自然なことかと思っていました。ただ、確かによく考えれば、尊敬する人や愛読書からはその人の思想・信条が見えてくることがありそうです。
画一的な健康診断がダメ、というのも意外でした。会社に入れば、定期的な健康診断が義務づけられるのですから、入社前にも健康診断をするほうが望ましいのかと思っていました。ただこれも、仕事に直接影響しない健康上の問題で就職が左右される可能性があるのでよろしくないということのようです。なるほどねと思います。
かつては、こうした配慮はあまり意識されていなかったようです。朝日新聞社を退職した人が最近の雑誌の対談で「入社の時に支持政党を書かされた」と言っていました。1970年の入社試験のことのようです。対談相手は1960年に朝日新聞の入社試験を受けた人で、「自分の時はそんなことはなかった」と言っていました。私は1977年に朝日新聞の入社試験を受けましたが、そんな質問はありませんでしたので、この人の話がもし本当ならばですが、学生運動華やかなりし1970年頃だけにあった質問のようです。もちろん、こんな質問を今の就活でしたら、大問題になるでしょう。
アメリカ合衆国の就職事情を取材した記者のリポートを読むと、アメリカでは企業へのエントリーシート(ES)に顔写真を貼るところがないそうです。顔写真をみて、人種や男女、美醜などを判断基準にして選別することがあってはならない、という考え方だそうです。人種問題のあるアメリカだからとも考えられますが、日本でも確かにほとんどの仕事は顔写真が必要とは思えません。日本でもそのうち顔写真不要論が叫ばれるようになるかもしれません。
面接の際に、「その質問は違法です」とか「その質問は不公正な質問です」などと学生の側が言うのは難しいと思います。でも、終わったあとに大学の就職課には報告したほうがいいようです。記事では、大阪府内の大学、短大、専門学校など75校でつくる大就連(大阪府下大学等就職問題連絡協議会)は各学校の就職課などを通じて、学生に「就職差別等についての報告書」の提出を呼びかけていると書いています。問題のあるケースには、大阪府からの改善要請や労働局からの行政指導が行われるそうです。大阪だけでなく、企業に改善を要請する道はどこにもあると思いますので、黙っていないで問題提起することが面接を進化させていくことになると思います。SNSやネットサイトに暴露するよりも効果的ではないでしょうか。
ただ、こうした項目は会社側から聞いてはいけないのですが、みなさんが自分からESに書いたり面接で話したりするのは問題ありません。親の職業や過ごした場所、愛読書が自己PRや志望動機につながることは多いと思います。自分をアピールするためであれば、遠慮なく話してくださいね。
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