ニュースのポイント
日本経済新聞社がイギリスの経済紙であるフィナンシャル・タイムズ(FT)を買収しました。明治以来、日本の新聞社が欧米の新聞社を買収するのは、おそらく初めてでしょう。背景には、人口減とネット情報の氾濫(はんらん)で紙の新聞が売れなくなっていることがあります。打開策のキーワードは「デジタルとグローバル」です。デジタル新聞を世界の市場に向けて売ることができれば可能性は広がりますが、日本の新聞はどこもできていませんでした。それを日経がやろうとしているわけです。実は、この「デジタルとグローバル」はテレビ局や出版社などメディア業界が共通して抱えている課題。だから日経の動きはメディア業界全体にショックを与えているのです。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、1面トップの「日経が英FT買収/1600億円、英企業と合意」です。
記事の内容は――日本経済新聞社は23日、英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)を発行するFTグループを、教育事業や出版を手がける英ピアソンから8億4400万ポンド(約1600億円)で買収することで合意した、と発表した。国内メディアによる海外企業の買収で過去最大規模になるという。買収するのは、FT紙のほか、雑誌、ウェブサービスなど。ピアソンが持つFTの本社ビルや英経済誌「エコノミスト」グループの株は含まないという。FTは、世界のビジネス界で強い影響力を持つ。近年は新聞紙面だけでなく、デジタルでの発信にも力を入れてきた。日経も特にアジアでの国際的な情報発信に注力。経済ニュースや解説といった情報で両者の顧客基盤を生かし、グローバルな情報発信力を高める狙いだとみられる。今後、日経とFTは記者や編集者の人的交流を拡大するという。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
新聞、テレビ、出版というメディア業界は、ネット社会をどう生き抜くかが最大の課題になっています。どのメディアもネットにお客さんを奪われています。じゃあ、みずからネットに出て行こうと、「デジタル新聞」「ネットテレビ」「電子書籍」といった形でビジネスを始めていますが、無料文化のあるネットでは、これまでのビジネスほどお金になりません。ということで、おおむねじり貧状態です。
何とか事態を打開しようともがいていますが、将来像が見えてこないのが実情です。キーワードが「デジタルとグローバル」だとは分かっていますが、多くのメディアはデジタルニュースでお金をもらうことの難しさを痛感しています。また、日本のメディアは日本語のメディアで、これまでは日本語の壁で外資から守られていた面があります。逆に海外に打って出るとなると英語での発信を迫られるわけで、急にグローバルメディアになることも難しいと感じています。
今回、日経はその難しさを乗り越える決断をしました。経済ニュースはほかのジャンルのニュースに比べてお金を払ってもらいやすいと言われます。そのニュース自体が、読む人のお金もうけに直結するからです。これまで経済情報が十分になかったアジアでFTブランドの経済ニュースサイトを開設すれば、たくさんのお客さんを確保できると見ているようです。また、アジアの各地で英語で取材できて、英語で記事を書ける人の採用を始めているようで、英語での発信も何とかなると見ているようです。
日経の動きが、ほかのメディア業界を刺激するのは間違いなさそうです。新聞社、テレビ局、出版社などが、デジタルとグローバルでどう手を打ってくるか。10年後、20年後の姿は今の動きが決めるはずです。メディア業界の会社選びでは、将来の姿を描けているか、あるいは描こうと努力しているか、をよく見極めることが大切だと思います。
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