あきのエンジェルルーム 略歴

2015年07月16日

「かわいい子には旅をさせよ?」 意外な業種で進む女性活用 ♡Vol.44

 いつも心にエンジェルを。

 子どものころ、小学校の児童会や中学校の生徒会では、なぜだか男子が会長、女子が副会長というパターンが多かった記憶があります。そんなのはもう古い話かな、と思っていましたが、上場企業で女性社長や女性役員が誕生するとまだ大きな話題になります。国会議員に占める女性の割合も10%に届きません。
 同じように大学を卒業し、正社員として入社しても、十数年後、男女で昇進に差がつくのはなぜでしょう? 「女性は男性より能力が劣るから」などという企業はほとんどなくなっていると思います。しかし、女性活用が進まない理由を、「女性社員は管理職にふさわしい経験が少ない」、あるいは「女性自身がキャリアアップを望まない」と話す企業の担当者は少なくありません。もちろん、育成もせずにいきなり女性を高い地位に抜擢しても失敗に終わるだけ、ということはみんなわかっています。
 「経験が足りないなら、経験させればいいじゃないか」という当たり前の発想で、女性活用を進めている企業があります。今回紹介する株式会社IHIは、1853年、ペリー来航をきっかけに徳川幕府が開設した造船所が源流という総合重工業メーカーです。いまでは発電所に高速道路、宇宙開発まで、幅広い事業を展開しています。社員数は1万1949人、そのうち約13%、1587人が女性です。(左写真は同社が施工した明石海峡大橋)
 
 重工業というと「男性社会」のイメージが強い業界ですが、実際には女性社員に対し、手厚い支援がたくさんあります。育児休業は保育園の入園環境が整うまで最長で子が3歳の4月末日まで取れますし、短時間勤務も小学校卒業まで選択できます。有給休暇以外にも子の育児、看護のために使える「チャイルドケア休暇」もあります。2008年の制度導入時は就学前までの年に20日間だったのが、2014年に小学校卒業までに延長され、さらに2015年4月から25日間に拡大されました。
 期間内に使い切れなかった有給休暇を社員自身の傷病時に限り、さかのぼって使えるようになっていた「復活年休」も、2004年からは子どもの看護にも使えるようにし、さらに2008年には育児でも使えるように制度を拡充しました。

 どうして同社はそこまで女性社員の働きやすさを追求しているのでしょうか。
 ターニングポイントは2007年ごろ。同じような価値観、背景をもつ社員ばかりがいるモノカルチャーの組織では、意見の摩擦が少なく変化に対応できないだけでなく、コンプライアンスの面でももろい部分がある、と当時のトップが実感したのが大きいといいます。
 人事部人材開発グループ部長の秋元潤さん(右写真)はこう振り返ります。
「福利厚生ではなく経営戦略としてのダイバーシティーに本格的に着手したのがこのころです。多様な人材を確保するため、まず女性の大卒社員を増やし、今いる女性社員にも管理職を目指してもらおう、と当時のトップが方針を打ち出したのです」
 中でも特に力を入れているのが、2013年にスタートした女性による「ネットワークリーダー」という取り組みです。会社から任命を受けた若手女性管理職9人がリーダーとして各事業所の20歳代半ばから30歳前後の女性社員とネットワークをつくります。全員参加型の座談会やランチ会などを計画し、女性社員の悩みや課題、キャリアデザインについての相談相手を務めています。
 「女性が少ない分、女性同士、会社の知らない場所で交流しているだろうと思っていたのですが、聞いてみると意外につながっていない。特に若手の女性社員が身近なロールモデルがいなくて、自分の将来像を描けない、と不安を持っている。それなら、その部分を会社でフォローしていこうという話になったのです」(秋元さん)
 2015年からは9人のリーダーだけでなく、部長級、執行役員の女性管理職など3人がアドバイザーとして加わることで、女性でも長く働き続けられ、昇進も可能というメッセージを発信しています。女性管理職は現在60人、女性管理職比率は2.1%とまだ低いですが、2018年までに75人、3%を目指しています。
 人材開発グループのグローバル・ダイバーシティ担当部長の三樹あずささん(左写真)はいいます。
 「世間的にインパクトのある数値目標ではありませんが、社内に対し、女性活用の『本気度』を示すためにあえて公表しています。業態も違うので他社のことは気にしていません。管理職になっても大変なだけ、と思っている若手の女性社員に、ロールモデルを通じて管理職の醍醐味を感じてもらいたい。もともと世の中の役に立ちたいと入社している社員が多いので、自分が影響力を持つことで、実現したい社会に一歩近づける、とわかればがんばります」

 女性社員の意識を変えると同時に男性管理職への教育も徹底しています。一番のポイントは女性社員に対する「過度な配慮」をやめてほしい、ということだそう。たとえば同社の場合、20年前であれば、アフリカの一部など、衛生的でなかったり、安全確保が難しかったりという現場には女性社員は派遣しない、という暗黙の了解があったといいます。
 「しかし、いろんな場所でトラブル処理を経験していかないと信頼される管理職にはなれません。男性管理職は、放っておくと男性部下に大きな仕事をまわす傾向があるので、意図的に女性社員に重要な仕事を振る、ということを心がけてもらっています」と三樹さん。
 女性が管理職になっても、会社のフォローは終わりません。女性管理職の上司と人事部の担当者2名が年に1回三者面談をして、その女性管理職のキャリアについて1時間じっくり話し合います。今の部署でもっと経験を積ませるか、他の業務を経験させるか、本人の希望も踏まえながら異動の橋渡しもします。
 「上司にすれば彼女の働きぶりはそのまま自分の部署(ライン)の業績にかえってきますので、真剣に女性管理職の能力向上を考えています。この女性社員に部長職を目指してもらうなら、来年はどんな業務を与えるべきか、上司にきちんと計画を立ててもらうのです」(秋元さん)

 また、全執行役員以上が出席する役員懇談会で、年1回必ず、女性や外国人社員の活躍に向けた取り組みを情報共有し、女性の昇進状況をモニターしています。同社は2014年、東京証券取引所と経済産業で選定する「なでしこ銘柄」に選ばれました。
 秋元さんが続けます。
 「世間の評価に一喜一憂するより、とにかく社内の風土を変えることを意識してやっていきたい。ネットワークリーダーに選ばれた若手女性管理職1人が毎年それぞれ10人に影響を与えれば、あっという間に理解者が200人、300人になっていくはず」(画像はIHIの文字で事業内容を紹介する新聞広告・海篇)
 
 この徹底ぶり、いろんな企業に見習ってほしいですね。

人気記事