あきのエンジェルルーム 略歴

2015年05月07日

健康をキープすれば“ボーナス”がもらえる会社があった!? ♡Vol.34

 いつも心にエンジェルを。

 社員を大切にしている会社とは、どんな会社でしょうか? その問いには働く人それぞれによって何通りもの正解があります。たくさんお金を稼ぎたい、という人にとっては労働時間や成果に見合う報酬をきちんと支払ってくれる会社でしょうし、安定した暮らしをしたい、という人にとっては終身雇用を守ってくれることかもしれません。また子どもや介護の必要な家族をもつ人には、休みやすく柔軟な働き方をできる、というのも魅力でしょう。
 しかし、本人が「健康」を維持するために努力すればインセンティブ(成功報酬)を会社が払う、という取り組みは珍しいのではないでしょうか。
 今回紹介するのは、住友商事グループのITサービス企業、SCSKです。同社では、2015年4月から「健康わくわくマイレージ」という制度を導入、朝食をとること、1日1万歩のウォーキング、最低1日2回の歯磨き、週2日の休肝日、禁煙といった生活習慣5項目や定期健康診断(肥満、糖代謝、肝機能、血圧など)の結果や改善状況をポイント化し、その蓄積ポイントに応じて年に最大3万円のインセンティブを支給することになりました。

 同社は2011年に住商情報システムとCSKが合併して誕生しました。社員数7328人、大半がシステムエンジニア(SE)で、女性は17%とそう多くはありません。SEといえば、顧客への24時間対応など長時間労働が当たり前というイメージがあります。同社もその例にもれず、かつては疲れて自分の机に突っ伏して寝ている社員、外に食事に行く時間もなく机でコンビニ弁当をかきこむ社員などの姿があったそうです。
 そんな同社が社員の「健康」に注目し始めたのは2005年のことです。団塊世代の大量退職を控え、企業が女性社員の戦力化を強く意識し始めた、いわゆるダイバーシティ元年(2006年)の前後です。住商情報システム時代、妊娠や出産を機に退職する女性社員を減らすため、「女性活躍プロジェクト」に着手しました。快適な職場づくりの一環として、「受動喫煙」を防ぐ取り組みを2006年にスタートしました。
 まずタバコの自動販売機を撤去し、2009年4月からは社内全面禁煙を実施しました。2010年に実施された「禁煙&健康増進キャンペーン」では、全社員の家族あてに、禁煙に対する家族の理解と支援を求める社長の直筆サイン入りの手紙を送付。禁煙治療やニコチンガムの費用を会社が負担するだけではなく、禁煙に成功すれば、旅行などに使える5万円相当の福利厚生ポイントを支給。禁煙に挑戦する社員を応援する禁煙サポーターにも2万円相当のポイントを支給しました。
 当時800人いた喫煙者のうち530人が参加し、260人が禁煙に成功、合併後も2013年に同様の取り組みを行い、562人の喫煙者が参加、そのうち293人が禁煙に成功しました。

 しかし禁煙だけが健康維持の方法ではありません。業界特有の長時間労働の改善をはじめ、ずべての社員が健康的に働く環境をつくるため、冒頭に紹介した「健康わくわくマイレージ」制度の導入に至ったのです。
 社員の健康を意識した取り組みが加速した背景には、2009年、住友商事から中井戸信英・現会長が前身の住商情報システム社長に就任したことがありました。就任早々、社内を見て回った中井戸氏は、ぎゅうぎゅう詰めの作業スペース、徹夜、残業続きで疲れ果てた社員の顔を見て、「働きやすい会社にするぞ」と宣言します。
 ハード面ではまず社屋を2010年に移転し、1人あたりの作業スペースを1.5倍に増やしました。社員食堂にカフェテリア(左写真)、社内クリニックや薬局を設置、マッサージを受けられるリラクゼーションルームを勤務時間にも利用できるように拡充しました。ソフト面で注力したのが残業時間の削減です。

 同社人事企画部ダイバーシティ推進課長の加地早苗さん(肩書は取材当時/写真)は振り返ります。
「当社の財産は“人”しかない。だから社員を大事にしないといけない、とトップには強い信念がありましたが、部門の責任者レベルでは、労働時間を減らすことで、売り上げや顧客の満足度が下がるのではないかと、不安を口にする人もいました。そのとき社長が『一時的に売り上げが下がっても必ず巻き返せる。もし下がったとしたらそれでも構わない』と明言したことで、全社的に取り組むことができたのです」
 実際にはそれで売り上げが落ちるどころか、その後も同社は毎年増収増益を続けています。

 中でも効果が高かった取り組みが、同社が2013年から取り組んでいる「スマートワーク・チャレンジ20(スマチャレ20)」でした。目指したのは有給休暇取得日数20日(100%消化)、1カ月の平均残業時間20時間以下です。

 残業削減が、残業代を減らすというコスト削減目的ではないことを社員に理解してもらうため、削減できた残業代100%を原資として、再び社員に還元するという仕組みを導入しました。目標を達成できた部門にインセンティブとして、達成度合いに応じたボーナスや懇親費用を支給したのです。  

 2008年度には月平均で35.3時間だった残業時間は2013年度には22.0時間まで減少、有休取得日数も13日から18.7日に飛躍的に伸びました。
 残業を減らすための取り組みはさまざまです。多忙な部署に他部署から応援人員を出したり、17時以降の会議を禁止し、時間に上限を設けたり。他にも「立ち会議」(立ったまま会議をすることで時間を短縮)、「1Best運動」(電話1分以内、議事録1枚以内、会議1時間以内という取り組み)、「1/8会議」(会議の時間、人数、資料をそれぞれ半分にする)といった工夫もしました。「早帰り」や「18時まで」などのカード(写真)を机の上に置き、周囲に予定を知らせることや、定時になったら部長が各部員に「早く帰ろうね」と声をかけるアナログな方法も有効だったようです。
「『立ち会議』もその一つですが、効率化のアイデアを社員からも募って実施したことが大きかった。きっかけはトップダウンでしたが、方法には自分たちの意見が反映されたことで社員に『やらされている感』がなく、残業を減らす意義がうまく腹落ちしたのだと思います」(加地さん)

 2013年度には経済産業省主催のダイバーシティ経営企業100選に選定、2014年には日本経済新聞社の調査による「人を活かす会社」ランキングの総合1位に選ばれました。2015年3月には、社員の健康管理を経営的な視点から考えている企業として、経済産業省と東京証券取引所が選定する「健康経営銘柄」の第1号(22社)の一つに選ばれました。

 2014年度に「スマチャレ20」の目標をほぼ達成したということで、2015年7月からは目標達成部署へのインセンティブ支給を廃止、全正社員に残業時間の有無にかかわらず34時間または20時間の残業手当相当額を手当として給与に一律上乗せすることにしました。残業を減らせば減らすほど、時給単価が上がる計算です。定時に帰ることで残業手当が減ることを意識することなく働けます。それでも想定した残業時間数を上回る所定外勤務があった場合、法令に従い、きちんと割増手当も支給されます。
 そして、その手当の名称は、「残業手当」「時間外手当」でなく、「健康手当」と呼ぶことになりました。残業なのに健康、というと意外な感じがしますが、「健康手当」をもらうほどたくさん働いた社員は自分の健康をもっと意識しなさい、というメッセージなのだそうです。

 家族や友人だけでなく、職場にも自分の健康を大事に思ってくれている人がいる、それだけでも心と体の健康がグーンと増進しそうな気がするのは私だけでしょうか。

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