2024年12月19日

副業・兼業が促進される中、自死に労災認定も 副業の今後について考える【就活イチ押しニュース】

テーマ:社会

 収入源がもう1つ増えると安心、本業以外でもスキルアップの機会が欲しい……。社会が変化するスピードが加速している現在、「副業」に関心をもつ就活生は多いのではないでしょうか。2018年に国は副業・兼業を推進する方向に舵を切り、2024年に学情が行ったアンケートでは、20代ビジネスパーソンの約7割が「勤務先で認められていたら副業したい」と回答しています。そんな中、二つの仕事を掛け持ちしていた男性が自死したのは両職場での心理的負荷が重なったとして、労災と認定されていたことがわかりました。副業・兼業を考える人にとっては気になるニュースなのではないでしょうか(編集部・福井洋平)
(写真はiStock)

複数の職場での負荷を総合的に判断して労災認定

 朝日新聞の記事によると、この男性は2019年12月から測量会社大手の技術社員と地方国立大の研究員を兼業していましたが、2021年5月に命を絶ちました。この件を担当した労働基準監督署は両職場での心理的負荷は単独だと3段階の「中」で労災とは評価できないが、総合的にみれば「強」だと判断。「複数業務でうつ病を発症し、自殺した」として今年4月、労災と認めました。

 2020年に労災補償保険法が改正され、複数の職場での負荷や労働時間を総合的に評価して審査できるようになりました。改正以降、総合評価による労災認定は17件ありましたが、数値化が難しい心理的負荷の総合評価で過労自殺とされたのは初めてといいます。このような法律改正が行われた背景には、政府が副業・兼業を積極的に推進するようになったことがあります。

 「働き方改革」を掲げた安倍政権は、2018年にそれまで副業などを原則禁止としていた就業規則のモデルを変更。「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」となっていた部分を削り、副業を許可制から「届け出制」に変えました。また、副業を推進するための指針もつくりました。この動きを受け、総務省の2022年の調査によると全国の副業・兼業者(本業が農林業などを除く)は、2017年の約245万人から約305万人に増加しています。労災の認定についても副業・兼業の拡大にあわせたいということで、法律改正が行われたわけです。
(図表は朝日新聞社)

現状の副業は「生計維持のため」

 国が副業推進に舵をきった理由は、「技術革新や起業に有効」と考えたためです。当時の法改正議論にかかわった大学教授によれば、国はイノベーションにつながるような高所得者による副業を念頭においていました。しかし、現状の副業・兼業は「生計維持のため」が多いようです。総務省の調査では、本業の所得が299万円以下という人が約3分の2を占めており、特に99万円以下の人の割合が最も多かったそうです。独立行政法人の2022年の調査でも、副業をする理由(複数回答)は「収入を増やしたい」(55%)、「一つの仕事の収入では生活できない」(38%)との答えが上位を占めています。

学情のアンケートで7割が「副業したい」

  終身雇用制はすでに当たり前ではなくなり、リモートワークの浸透で自由な時間も増えました。今後の転職をにらんで持ち運びできるスキルを身につけたい、複数の収入先を持っておきたい、というニーズも高まっています。学情が2024年7月に20代の社会人を対象に行ったウェブアンケートでは、約7割が勤務先で認められていたら「副業したい」「どちらかと言えば副業したい」と回答。また、転職活動時に副業可という企業は「志望度が上がるか」という問いに、「志望度が上がる」「どちらかと言えば志望度が上がる」とした回答はあわせて6割程度にのぼっています。就活に際しても、志望する会社が副業に対してどういった対応をしているか、気になる方も多いのではないでしょうか。

志望先の副業対応についてはチェックを

 厚生労働省は2022年に副業・兼業に取り組む企業にヒアリングし、事例をとりまとめました。主な事例を紹介します。詳細は記事末尾にあるリンク先でご確認ください。

カゴメ……「可処分時間の中に成長の機会がある」という考えから、自由な時間の過ごし方の選択肢の一つとして副業を用意するため、2019年4月に副業ルールを明確化。カゴメでの年間総労働時間が1,900時間未満かつ月平均の時間外労働15時間以下であることを副業実施の要件としているため、副業を実施している社員は、時間の使い方がうまく、生産性の高い者が多い。

SMBC日興証券……2020年4月に、これまで原則禁止していた副業を解禁。副業希望者はeラーニング研修を受け、副業解禁の趣旨や背景、副業に伴うリスクや注意事項を理解した後、所属長の承認を経て、人事部に申請書を提出する。雇用による副業・兼業は禁止。

全日空……以前から雇用ではない形の兼業は認めてきたが、コロナ禍をきっかけに2020年10月に雇用による兼業を解禁。2022年4月時点で700名以上の社員が兼業を実施し、兼業実施者の大半は客室乗務員。

 志望する企業の副業・兼業への対応が気になる場合は、そもそも副業・兼業を認めているか(場合によっては推進しているか)、副業をするにあたってどういった手続きが必要か、どういった制約があるかなど、企業が公表している情報を調べておきましょう。
(写真・厚生労働省/朝日新聞社)

割増賃金の支払い方法見直しの動き

 そしてもうひとつ気にすべきことが、副業によって労働時間が長くなることに対してどう対策するか、ということです。冒頭にあげた事例では、まさに副業・兼業が健康被害につながるケースが可視化されました。ワークライフバランスも崩れがちになるという指摘もあり、自分で自分の労務管理をする意識を高めることはとても大切です。

 そんな中、厚生労働省が副業・兼業を促進するため、割増賃金の支払い方法を見直すという報道がありました。いま、1日8時間、週40時間を超えた労働に対しては割増賃金が支払われることになっており、副業・兼業をしている場合は両方の労働時間を足して計算する仕組みになっていました。しかし11月12日の朝日新聞記事によると、厚労省はこの仕組みを改め、企業ごとの労働時間で割増賃金を計算するという方向で検討を始めているとのことです。たとえば本業で35時間、副業で20時間働いた場合、現状の仕組みではあわせて55時間働いたことになり15時間分の割増賃金が発生しますが、見直しがされればどちらの企業でも割増賃金は発生しないことになります。現状の仕組みの場合、どちらが割増賃金を支払うかがわかりにくく、また割増賃金を負担しなければいけない副業先が雇用を拒む可能性もある、と指摘されてきました。今回の見直しによりそういった障壁をなくし、副業をさらに広げることが厚労省の狙いとされています。

 しかしこの見直しが実現すれば、長時間労働を抑えるという割増賃金本来の効果は期待できなくなります。本業と副業、トータルでの労働時間をどう管理するのか、さらに冒頭のケースのように心理的負担が本業と副業両方で重なっているときにそれをどうチェックするのか、さまざまな課題が残されています。今後のキャリアプランを考えるにあたっては、いま国の副業に関する制度がどうなっていて、今後どういう変化が起きそうなのかもチェックをして、自分の健康とキャリアを両立させる方法を考えてほしいと願っています。

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