ニュースのポイント
安倍首相と米国のトランプ大統領の首脳会談(10日)が迫る折、米国の2016年の貿易統計が発表されました。モノとサービスの取引をあわせた貿易・サービス赤字は5023億㌦(約56兆円)となり、前年より0.4%増えました。日本とのモノの取引の赤字額は689億ドル(約7兆7千億円)で、貿易赤字相手国では日本がドイツを抜き、中国に次いで2位となりました。
トランプ大統領は、貿易赤字を悪いものとして、中国や日本に対し、輸出の抑制や米国製品の輸入拡大を求める構えです。でも、本当に貿易赤字は悪いものでしょうか?ニュースを理解するための基礎をおさえましょう。(朝日新聞教育コーディネーター・一色 清)
今日取り上げるのは、1面の「米の貿易赤字 日本が2位に 2016年」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
(写真は2016年11月に会談した安倍首相とトランプ氏の様子です)
経常収支が国の「もうけ」
国に住んでいる人(法人含む)と、国外に住んでいる人(法人含む)のすべての取引の収支を計算した数字を経常収支といいます。会社で言えば、最終のもうけにあたります。ただ、国の場合、会社のように黒字が大きければ大きいほどよく、赤字はよくない、とは一概には言えません。たとえば、アメリカは経常赤字を長い間垂れ流していますが、市場が魅力的なため海外からのお金が投資され、世界一の経済大国として問題なく回っています。
また、経常収支が黒字ということは、黒字分だけ「その国の貯蓄に回ったお金が投資に回ったお金より多かった」ことになります(赤字ならその逆です)。つまり、「もうけ」は貯蓄の形でその国に貯められるわけです。
日本の貿易黒字は縮小
経常収支は4つの収支に分けられます。貿易収支、サービス収支、所得収支、経常移転収支です。このうち、金額が大きいのが、モノの取引である貿易収支と、利子や配当といったお金の出入りを計算した所得収支の2つです。
日本は、かつては貿易黒字が大きい国だったのですが、今は原油価格の上昇などで赤字傾向になり、所得収支の大きな黒字によって、経常収支を黒字に保っている国になっています。
(グラフは、最近の日本の貿易収支です。2011~15年は赤字でした。16年は、円高と原油安で、6年ぶりに黒字に転じました)
貿易赤字でも国民に効用あり
米国のトランプ大統領は、中国や日本との間の貿易赤字を問題にしています。でも、国は会社とは違います。経常収支同様、貿易収支も赤字=悪とは一概には言えません。
リカードというイギリスの経済学者は「比較優位論」を唱えました。「それぞれの国が得意な分野に注力して不得意な分野は他国に頼れば、全体の効用は大きくなる」という理論で、自由貿易を推進するバックボーンになってきました。
米国の国民は、輸入によって、より高品質、安価な製品を買えます。あるいは、米国には存在しない資源を得て、国民の生活はよくなっています。結果として貿易赤字だったとしても、持続可能な範囲であるなら、国民にとっては貿易が盛んなほうがいいはずです。
会社と国は目的が違う
トランプ大統領は、元々会社の経営者です。会社はもうけることが目的ですので、国も同じように考えているのではないでしょうか。
国の目的は、国民の幸福です。経常収支にしても貿易収支にしても、赤字が大きくなり過ぎれば、国債が暴落したり、為替が大きく変動したりする危険性がありますが、今程度の赤字なら問題はないでしょう。安倍首相は、トランプ大統領に「保護貿易や管理貿易は国民全体の利益になりませんよ」と伝えるべきでしょう。
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