ニュースのポイント
毎年、年明けのこの時期に有力経済人が一堂に会するパーティーがあります=写真。普段は会いにくい人ともわりと簡単に会えるので、大勢の経済記者が取材に集まります。そして一様に聞くのが、「今年の景気予想」です。大会社の経営者がどんな景気予想をしているのかは、社会の関心事です。もちろん当たるとは限りませんが、何をチャンスと考え、何をリスクと見ているのかということは、世のなかを渡っていくうえで参考になります。もちろん就活生の心構えや会社選びにも大いに参考になります。(朝日新聞社教育コーディネーター 一色清)
今日取り上げるのは、経済面(7面)の「景気展望 やや曇り気味 経営者に聞く 今年の『天気』予想 トランプ氏の動向で変化」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
トランプ氏でよくなる?
経営者たちの今年の「天気」予想は、晴れや曇りが交錯するはっきりしないものとなりました。その最大の理由は、1月20日にアメリカ大統領に就任するトランプ氏の政策と動向が読めないためです。
明るい方向を見る人は、トランプ氏が大統領選で勝ってから、円安株高が進んで、このままいけば輸出産業がもうかり、株高の恩恵で内需もよくなると予想します。
アメリカ経済も、トランプ氏が減税や財政出動を政策に掲げていますので、今よりもっとよくなると見ています。
トヨタにも恫喝の矛先
一方で、トランプ氏の保護主義的政策を心配する人も少なくありません。トランプ氏は、メキシコに工場をつくってアメリカに輸出する企業に対して、個別に批判のメッセージを発しています。
これまではアメリカ企業に対してだけだったのですが、6日にはついに日本企業のトヨタ自動車に恫喝(どうかつ)のような警告をツイッターで発信しました。「現在メキシコに建設中の工場を完成させてカローラをアメリカに輸出するなら重税をかけるぞ」というものです。
アメリカとメキシコとカナダは
北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでいて、貿易は関税なしでできることになっています。このため、日本を含む多くの自動車メーカーは人件費の安いメキシコに工場をつくってアメリカに輸出しているわけで、協定を無視して「重税を課す」と脅すのはむちゃくちゃです。重税を課されるなら、メキシコ工場は立ちいかなくなり、日本企業も大きな損失を出すことになります。
(写真は、トヨタがメキシコ工場で生産し米国に輸出しているピックアップトラック「タコマ」です)
いずれ円高株安に?
今の円安ドル高も続かないと見る人が少なくないようです。アメリカの輸出に不利になるドル高をトランプ氏が容認するわけはないということで、いずれ円高が進み、つられて株安になるというわけです。株安になると、国内の消費は減り、景気が悪くなるという連想ゲームです。
円安株高、円高株安については、「『円安・株高』でスタートしたが…『基本のき』でおさらい」(1月5日)を読んでください。
正月の展望のクセ
もうひとつ考えないといけないのは、「経営者はお正月には明るい未来を語りたがるもの」ということです。自分の会社の社員にも取引先にも、少し強気の見通しを示し、心機一転頑張ってもらおうという心理が働きます。
ということは、こうしたパーティーで語られる景気展望は少し割り引いて受け止める必要があるということになります。今年の展望が「すっきりしない空模様」だったとすれば、実際は「あまりよくない空模様」を示しているのかもしれません。
今、社会には円安株高で浮かれ気分も散見されますが、就活生は気を引き締めて対策を練ったほうがいいかもしれません。
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