ニュースのポイント
トランプ次期米大統領(写真)と、
シリコンバレーなどの米大手IT企業のトップ10人あまりがニューヨークで会談しました。選挙期間中、トランプ氏はIT企業を国内の雇用に寄与していないなどと批判していましたが、大統領になることが決まり、関係を改善しようとしたものだと見られています。ただ、IT技術は国境を軽々と飛び越えるところが魅力であり価値でもあります。人材にしても、世界中からやってきた才能のある若者たちがシリコンバレーを支えています。「アメリカ人のアメリカでの雇用」を第一に考えるトランプ氏とは、基本的に水と油です。関係改善は難しいでしょう(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、経済面(11面)の「IT大手と和解なるか/選挙中に非難 トランプ氏/トップ会談修復図る/移民政策など壁/ペイパル創業者が鍵」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
IT企業は「自由と競争」
IT企業の体質を簡潔に言うと、「自由と競争」だと思います。服装の自由、職場レイアウトの自由、発想の自由、国籍の自由、言語の自由、経営の自由など、自由を大事にします。規制をしたり、国境の壁を高くしたりすることには抵抗を感じます。そうした自由を土壌にして激しい競争で弱肉強食の世界を形成しています。規制に守られ競争はほどほどにという古い業界とは違います。トランプ氏を支持したといわれる比較的貧しい白人層は、こうした古い業界の関係者が多いとみられています。大きな構図でいえば、IT企業などの新興企業に押されて生活が苦しくなっている層です。だから、トランプ氏はIT企業を批判し、IT企業はそれに反発したのです。
(写真は、アップルのティム・クックCEO)
政策変えなければ協調難しい
トップ会談には、グーグルの持ち株会社アルファベットやアップル、アマゾン、マイクロソフト、IBM、テスラ・モーターズ、フェイスブックなど名だたるIT大手の最高経営責任者(
CEO)や幹部が出席。トランプ氏は「素晴らしい技術革新を続けて欲しい。あなた方のような企業は世界にない。出来ることはなんでも手助けしたい」と関係修復をアピールしました。
トランプ氏はIT企業について、雇用が海外に移っているとか移民が支えているとかの問題のほか、アップルが米連邦捜査局(
FBI)への容疑者情報の提供を拒否したことや、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏(写真)が所有するワシントン・ポスト紙がトランプ氏批判の報道をしてきたことも非難してきました。四方八方から攻撃していたのです。しかし、大統領になれば、成長産業のIT企業と関係が悪くなったままではいけないと考えて、この日の会談になったようです。
ただ、トランプ氏が移民や企業のグローバル展開を嫌うこれまでの政策を変えなければ、協調するのは難しそうです。移民もグローバル展開もIT企業の遺伝子に組み込まれたものになっているからです。世界中の才能が集まって画期的なテクノロジーやソフトが生まれます。世界中で同じように使えるテクノロジーやソフトだから企業は成長できるのです。
「グローバリズム対反グローバリズム」
こう見てくると、IT企業とトランプ氏の対立は、「グローバリズム対反グローバリズム」の対立と言えます。つまりこの問題は、世界の底流にある大きな対立が表出した興味深い問題なのです。反グローバリズムの主張もわからないではありません。世界中で格差が拡大している現実を何とかしないといけません。むき出しの弱肉強食はたくさんの不幸を生み出します。ただ、それでは各国が国境を閉ざして静かに暮らせばいいかといえば、そうは思いません。人、モノ、金、情報ができるだけ自由に世界を移動できることは世界全体が豊かになるうえで必要なことです。問題は、格差拡大などの弊害をできるだけ少なくする方策を考え、その仕組みを世界で共有することです。その考え方は、トランプ氏にもIT企業経営者にも共有されないといけないことだと思います。
就活生も、「グローバル化の必然と弊害」について考えてみてはいかがでしょうか。これからもっと議論が激しくなる大テーマですし、日本の企業にも大いに関わりがあります。グローバル化と格差拡大の問題については、12月6日の今日の朝刊「『反エスタブリッシュメント』って? 欧米の若者が怒ってる!」でも取り上げました。読んでみてください。
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