ニュースのポイント
トヨタ自動車の4~6月期決算の営業利益は、前年同期より15%の減益となりました。減益になるのは5年ぶりです。主な理由は円高です。トヨタ自動車の場合、ドルに対して1円高くなると、年間の営業利益が400億円減るそうです。この計算でいくと1ドルが95円になると、トヨタ単体は赤字になってしまいます。アベノミクスの核心は円安政策でした。お金をたくさん市中に流すことでお金の価値を落として円安にし、輸出企業をもうけさせることです。トヨタは日本の輸出企業の代表格で、アベノミクスとともに巨大な利益をあげてきました。それが減益になったということは、アベノミクスの行き詰まりを示しています。輸出企業が我が世の春を謳歌(おうか)した時代は終わったのかもしれません。ただ、為替で損をする企業があれば同じくらいもうかる企業もあるわけで、日本経済全体としては為替に一喜一憂しすぎることはありません。(教育総合本部教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、1面の「トヨタ営業益15%減/円高影響 5年ぶり減益/4~6月期」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
えーんだか、悪いんだか
ずいぶん前ですが、私は週刊誌「AERA(アエラ)」でダジャレコピーを担当していました。その頃、円高が進んで大きな問題になりました。ダジャレコピーのテーマを円高と決め、「えーんだか、悪いんだか」というコピーを作りました。世間の評価はともかく、私自身はこのコピーを気に入っていました。単なる言葉遊びにように見えるかもしれませんが、込めた意味もあります。円高とか円安とかの為替変動は、いいこともあれば悪いこともあるということです。問題は、経済の実力に見合った為替水準であるかどうかで、円安はいつもよくて、円高はいつも悪いわけではありません。
(写真はトヨタ自動車の豊田章男社長)
ビッグマックで比べる適正水準は?
では、経済の実力に見合った為替水準は今ならどのくらいでしょう。これが適正水準だという厳密な正解はないのですが、購買力平価がそれに近いと言われています。たとえば、円とドルの関係で言えば、日本とアメリカで同じものがいくらで買えるかを見て、そこからはじき出す水準です。よく使われるのがビッグマックの値段です。今、アメリカでは3.99ドルで、日本では370円です。これで釣り合いがとれているのなら、370円÷3.99ドル=92.73円/ドル、つまり1ドル92円73銭が購買力平価となります。
これを一応適正水準とすると、101円前後の今の為替水準はまだかなりの円安だということになります。今の水準で悲鳴を上げてはいられません。トヨタは1ドル80円前後だった2012年にも黒字を出しています。本来、それくらいの円高適応力があったのに、95円で赤字になるというのはこの間に適応力が落ちたことになります。
日本経済全体の損得は?
ただ、日本経済全体で見ると、為替の影響はそれほど大きくはありません。日本の貿易収支は赤字になったり黒字になったりしています。だいたいトントンとみれば、円高になれば輸出の多い企業が損する分、輸入が多い企業は得をするということになります。損得は、いってこいです。ただ、海外で得たり、海外に払ったりする利息や配当の収支を所得収支といいますが、これは大きな黒字が定着しています。こちらは、ドルで得る黒字分を円に換えたときに円安の方が大きな金額を得られますのでので、円安の方が得になります。ということで、日本は円安の方がいいのですが、それは少しいいという程度です。
為替の基礎は知っておこう
就活生は、こうした為替の基礎は知っていなくてはいけません。そしてあなたが就職したい会社は、円高がいいのか、円安がいいのか、は当然わかっていなくてはなりません。すべてが国内で完結している会社なんてほとんどありません。どんな会社も為替の影響は必ず受けます。輸入の多い会社の面接で「最近心配していることは円高です」なんていうと、何もわかっていないなと思われるでしょう。経済を知る入り口として、為替の動きを気にかけることからはじめてはどうでしょう。
※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから。