ニュースのポイント
スマホ向けゲーム「ポケモン ゴー」の日本での配信が22日、始まりました。配信の前から、待ちきれないファンが「ポケモンゴーゴーゴー」などの偽アプリをダウンロードしたり、事故を心配した学校の先生が終業式に「ポケモン ゴー」に注意するように話したり、ちょっとした狂想曲が奏でられました。「やめましょう」と標語で呼びかけられている「歩きスマホ」が前提になっているようなゲームなので、やらない人にとっては迷惑でしかないゲームです。私はぜひ「いい悪い」の論争をやってほしいと思います。このゲームは人工知能が活躍する未来への最初の関門のような気がします。そうした時代に何が問題になって、私たちはどうやって幸福になればいいのか、そんなことを考えるきっかけになると思います。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、経済面(8面)の「ポケモン ゴー 政府が注意喚起」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
何が問題なの?
最大の問題は、歩きスマホによる事故が心配されることです。先行して配信されたアメリカなどでは、通行人同士がぶつかるというのは当然で、崖から落ちたとか、自転車や自動車の運転中にスマホを見ていて事故を起こしたりしています。
夢中になって立ち入り禁止のところに入るという問題もあります。すでに原子力発電所に入ったとか地雷原に入ったとかアウシュビッツ博物館に入ったなどの事例があったそうです。
ポケモンがいる場所で待ち伏せして強盗したなど、犯罪に結び付くケースも出ています。
日本では、問題が一段と大きくなる可能性があります。アメリカより人口密度が高く、ゲーム配信の前から歩きスマホが問題になっていました。それに日本は安全への意識がとても高い国です。大きな事故でも起これば、配信禁止の声も出ることが予想されます。
政府は?
この記事にあるように、利用者への注意喚起はしましたが、配信する会社側には何も注意をしていません。成長戦略が足りないと言われている政府にとっては、バーチャルリアリティー技術や人工知能はこれから最も力を入れたい分野です。「ポケモン ゴー」は、スマホのカメラ機能と位置情報を組み合わせてできています。現実と仮想世界の境目をとりはらうことで斬新なゲームとなっています。こうした技術は、少し考えただけで集客や広告、エンターテインメントなどに使えそうです。
それにこのゲームは、ポケモンという日本発のキャラクターが主役で、任天堂などの日本企業が関わっています。政府や経済界は、少々の社会問題が発生しても、このゲームを後押しするスタンスは変えないでしょう。
ただ、死亡事故などの重大な事故が起きた場合、どうでしょう。大人気ゲームとはいえ、やらない人の方が国民の多数であることは間違いないと思います。やらない人にとってはとりあえずいいことはなく、迷惑だけがあるというのなら、政治的に難しい局面になるかもしれません。
どう考えればいいの?
自動車が発明されたときに、「将来、この自動車によって毎年世界で百数十万人が死にます」と言われると、自動車の製造は禁止されたかもしれません。実際、今、世界では交通事故によって、毎年百数十万人の人が亡くなっています。でも、今、それを知っても誰も自動車を禁止しようとは言いません。人の命と天秤にかけるのは不謹慎かもしれませんが、多くの人は「助かっている人の命を含めて、それ以上の便益をもたらしている」と思っているからでしょう。
「ポケモン ゴー」自体の便益は大したことないのでしょうが、このゲームがさらに発展してゲーム以上のものになって私たちに大きな便益をもたらす可能性があります。「迷惑だからこんなゲームは禁止してしまえ」というのは短絡的です。でも、大きな事故が起こると、そうした声に抗しきれなくなります。大きな事故が起こらないように、うるさいほど注意喚起をしたり、安全に遊んでいるかと社会全体で目を光らせたりすることが、日本の成長のためにも必要なのです。
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