2016年05月27日

世界の「胃袋」ねらう農産物輸出 担う業界は?(一色清の「今日の朝刊」ウイークエンド)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 政府が農産物の輸出に力を入れています。日本の農業は、輸入に押されてじり貧になっています。今後、日本の財政が一段と厳しくなる状況を見越すと、補助金頼みの守りの農業では維持すら難しくなっていきます。攻めに転じるには、輸出を増やすしかないというわけです。おりしも、中国をはじめアジアの国々が成長しています。日本への観光客も飛躍的に増えています。経済的に豊かな人が日本の味を覚えれば、日本の食品や農産物への需要は必ず増えるはずだと政府は考えています。食品・農水産物の生産と輸出は、食品メーカー、酒類メーカー、商社、農業法人などが担います。これから注目される仕事になりそうです。

 今日取り上げるのは、9面(経済面)の「農産物輸出 政府旗振り/1兆円目標/相手国ごと販売策」です。
 記事の内容は――農林水産物の輸出拡大に向け、政府が今月初めてまとめた新戦略が動き始めた。安倍内閣は、農産物輸出を成長戦略の柱の一つと位置づけており、輸出額を1兆円まで増やすことを目指す。全国農業協同組合中央会(JA全中)も、輸出促進の新会社を秋にも立ち上げる方針で、取り組みが広がりそうだ。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 農林水産物・食品の輸出額は3年連続で過去最高を更新しています。2015年は7452億円となり、政府は「2020年に1兆円」としていた目標を前倒しできると見ています。
 
 農林水産物・食品の輸出が伸びれば、日本にとっていいことがたくさんあります。まず、農業や食品産業が活性化することです。国内は人口が減るわけで、全体の消費はどうやっても増えません。こうした悲観的見通しから後継者がいない農家が増え、ほったらかしで荒れ放題の農地が増えています。輸出できる農林水産物が増えれば、成長の可能性が出てくるわけで、農業という仕事を選ぶ若い人が増えます。地方が元気になります。国にすれば、農家を守るためにつぎ込んでいる補助金を減らすこともできることになります。

 こうしたいいサイクルができる条件は整いつつあります。まずは、アジアの成長です。経済的に豊かになった人たちは、少々高くても、おいしいもの、安全・安心なものを求めます。日本の農林水産物・食品はそうしたニーズにこたえることができます。また、日本を訪れる外国人旅行者が勢い良く増えていることも追い風です。日本の食品にふれた外国人は、自国に戻っても日本の農水産物・食品を求めることがあるでしょう。こうした口コミの力は大きく、パリやニューヨークでのラーメン店の繁盛ぶりや日本酒ブームなどを見ると、いったん広まりだすと早いと感じさせます。

 日本にとって、最も輸出したい農産品はコメでしょう。日本の農業の象徴として、補助金をつぎ込んで守られてきましたが、コメが海外でどんどん売れるようになれば、米作地帯の疲弊も幾分和らぐでしょう。その可能性はあります。日本のコメはコストダウンの努力でずいぶん安くなってきました。日本と同じような短粒種のコメを作っている中国やアメリカと比べても、生産者段階の価格は少し高い程度です。品質の差を考えれば、競争力はあると見る人も少なくありません。電気炊飯器を買って帰る中国人などをみれば、それで日本のコメを炊く姿は容易に想像できます。

 農水産物や食品を作る産業は、「胃袋産業」と言われます。胃袋の大きさが市場規模を決めるためです。日本の胃袋は小さくなっています。人口の減少があるうえ、高齢化が進んでいますので、食べる量は人口の減少以上に減っています。でも、アジアの胃袋は大きくなっています。人口はまだまだ増えていますし、豊かになることで胃袋の中に入る食品の価格も上がっています。日本としては、アジアを中心に海外の胃袋を狙うしかないわけです。

 すでに、酒類メーカーや加工食品メーカーは海外企業を買収したり、海外に工場を建てたりして、海外戦略を加速させています。農業や水産業も、輸出を視野に入れて法人を作り、会社のように大規模で効率的な経営を始めているところがたくさんあります。今後の成長はまだ手探りではありますが、グローバル時代のとても夢のある仕事だと思います。

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