ニュースのポイント
やりたい仕事を探すのは大事なことですが、本当にやりたいことや、自分に向いている仕事が見つかるとは限りません。そもそも会社選びに「正解」はなく、就活はゴールではなくスタート。入社してからの頑張りこそが大切です。
今日取り上げるのは、オピニオン面(15面)の「リレーおぴにおん 捨ててこそ⑨私立瀬戸幼稚園園長 和佐田強(わさだ・つよし)さん/より必要とされる場所で」です。
和佐田さんにインタビューした記事の内容は――和佐田さんは義父が創立した幼稚園を引き継ぐため43歳で三菱東京UFJ銀行を退職した。周囲からは「花形」「順調」と見られていた。ただ銀行には自分に代わる優秀な人材は大勢いるが、義父の仕事を引き継ぐ人はなかなか見つからない。より必要とされている場所で働くべきだと決断した。就職するときは、銀行なら融資などを通して様々な業種の人と出会えて世間を理解できるだろうと考えていたが、世間は広く深く、目の前の仕事に誠実に取り組むしかないことに気づいた。世間は人々がそれぞれの持ち場で「人の役に立ちたい」と懸命に仕事をしているから全体が成り立っている。子供の成長を応援することは、会社の成長を応援する銀行マンの仕事と本質に違いはない。銀行で得たものが幼稚園の仕事でいきている。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
和佐田さんは、やりたいこともはっきりしていなかった自分の就活をこう振り返っています。
「どの仕事が向いているのかを判断する尺度すら持ち合わせない、世間知らずの自分に就職活動中に気づいた」「『七つの海を渡ってやろう』と、グローバルビジネスに憧れていましたが、企業訪問を重ねるほど、何も知らない自分を痛感しました」
銀行に10年も務めれば世間がわかり、やりたいことも見つかるだとうと思い就職。ところが「世間は広く、深い。10年で奥行きまでわかるようなもんじゃない。逆に見えてきたのが自分の小ささでした」。世の中はそんなに単純ではなく、「正解」はころがっていませんでした。
業界・企業研究をし、仕事選びで譲れない「自分の軸」を探し、OB・OG訪問などでたくさんの社員の話を聞くことはとても大切です。これらをせずに行き当たりばったりで就活をした結果、たまたま内々定を得られても、「こんなはずじゃなかった」というミスマッチが起きかねません。
ただ一方で、どんなに深く研究して会社を選び、入社できたとしても、それが正しい選択かどうかは誰にもわかりません。あこがれの第1志望の会社に入れたら幸せが保証されているわけではなく、あこがれが強かった分、厳しい現実とのギャップが大きくて辞めてしまうかもしれません。一方で、あまり志望度は高くなく、たまたま出会った会社に内定して入ってみた人が、やる気満々で働いているケースも多くあります。
私自身は新聞記者という仕事に20年以上携わりました。心身ともに大変ですが、これ以上面白い仕事はないと今でも思っています。ただ自分にもっとも向いている仕事なのかどうかは、いまだにわかりません。かつて他に興味を持っていた仕事はありました。もしその仕事に就いていたら……と想像することもあります。「正解」はわかりません。ただ、私も和佐田さんのように、目の前の仕事に一生懸命取り組んできた自負はあります。和佐田さんは自分がもっと必要とされた義父の幼稚園に移り、「今後も目の前の仕事に全力投球する」と決意を語っています。就職後も道は一つではありません。
これからの就活で、みなさんには様々な出会いが待っています。「君が必要」と熱心に言ってくれる会社もあるでしょう。そんな出会いや縁を大切にしてください。そして与えられたフィールドで頑張る、全力投球する。「正解」に近づく方法はこれしかないのだと思います。
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