2015年01月14日

仏新聞社襲撃事件から「表現の自由」を考えよう

テーマ:メディア

ニュースのポイント

 襲撃を受けて記者ら12人が殺害されたフランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」が、事件から1週間後の14日に発行する特別号でイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を特集します。暴力に屈しない姿勢を示すと主張しますが、イスラム諸国で反発が広がる可能性もあります。この風刺画を転載するかどうかをめぐって、世界のメディアの対応は分かれています。今日は「表現の自由」のあり方について考えます。

 今日取り上げるのは、総合面(2面)の「時時刻刻・風刺か 侮辱か/仏紙、『涙のムハンマド』掲載へ」/転載見送り 米・欧で/イスラム教徒に配慮・テロ懸念」です。
 記事の内容は――シャルリー・エブド特別号の表紙に預言者の風刺画を描いたレナルド・ルジエさん(43)は記者会見で「私たちは表現したいものを表現しているだけ」「表現の自由は、表現の自由だ。『自由だ。だけれど……』などと留保をつける必要はない」と語った。表紙には、「すべては許される」という見出しがつけられ、目から涙粒をこぼして悲しそうな表情の預言者ムハンマドが胸の前で連続テロに抗議する合言葉「私はシャルリー」が書かれたプラカードを掲げる構図。同紙が特別号であえて預言者を描くのは、テロや暴力に屈しない姿勢を示すためだ。同紙の弁護士は「我々は一切譲歩しない」と述べた。特別号の発行部数は300万部(ふだんの平均部数は3万部)。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 シャルリー・エブドはこれまでもムハンマドの風刺画を掲載してきたため、過激思想をもった容疑者に襲われたとみられています。だからこそあえて、ムハンマドの風刺画を特集して、表現の自由を守るメッセージを発信する考えです。昨日のこの欄の最後にも書きましたが、言論への暴力は絶対に許されません。ただ、偶像崇拝を厳しく禁じているイスラム教では、ムハンマドの姿を描くこと自体がタブーであり冒瀆(ぼうとく)とされます。「表現の自由」はすべてに優先されるのか。とても難しいテーマだけに、世界のメディアの対応も分かれています。

 今日の記事などからまとめます。
【米ニューヨーク・タイムズ】事件発生以来、イスラム教関係の風刺画は載せていない。編集主幹は「読者、とくにイスラム教徒の読者の受け取り方を考えて決めた。侮辱と風刺の間には境界があり、これら(シャルリー・エブドのイスラム教関係の風刺画)の多くは侮辱だ」と語った。

【米ワシントンポスト】同社の風刺漫画家がシャルリー・エブドの風刺画を描き込んだイラストなどを掲載。オピニオン面編集長は「この表紙は読者が事件の全体像を理解する手助けになる」と述べている。

【デンマークの保守系紙ユランズ・ポステン】2005年に預言者の風刺画12枚を掲載。イスラム諸国の反発で翌年謝罪したが、欧州各紙が「表現の自由」を理由に転載したことで反発が広がり国際問題に。その後も抗議活動は続き、今も過激派に狙われている。今回はシャルリー・エブドの風刺画の転載をしないと社説で表明した。ロイター通信によると「暴力や脅迫に屈することになるのはわかっている」と説明している。

【フランスの主要紙】発生翌日の紙面で風刺画を転載。宗教を扱ったイラスト6点を集めたページを設けたルモンド幹部は「イスラム教だけでなくキリスト教などを扱った風刺画も選ぶようにした」と言う。

 アメリカやイギリスには、風刺画の部分にモザイクをかけた写真を掲載した新聞もあります。
 日本の全国紙の対応も分かれていて、シャルリー・エブド特別号の表紙については日経、産経が掲載し、朝日、読売、毎日は掲載していません。朝日新聞の長典俊ゼネラルエディターは「表現の自由は最大限尊重する。特定の宗教や民族への侮辱を含む表現かどうか、公序良俗に著しく反する表現かどうかなどを踏まえて判断している」と語っています。

 この問題はメディアの根幹にかかわるだけに、マスコミの面接で話題にのぼる可能性がありますし、グループディスカッションや小論文・作文のテーマになるかもしれません。正解はありません。ポイントは自分の頭で考えているかどうか。考えるための材料は新聞にたくさん載っています。今日の記事の最後に載っている2人の専門家の談話も参考になりますよ。

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