人事のホンネ

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【特別編 Part9】
まだ間に合う! 最終面接前に「志望動機」を深めよう

2019年05月28日

 「志望動機」は面接で必ず聞かれるテーマですが、選考の初期段階ではあまり重視されず、最終面接に向けてだんだん深掘りされます。エントリーシート(ES)に浅い志望動機しか書けなかった人も、今から企業研究を深めれば最終面接に間に合います。志望動機は会社のよいところを挙げることではありません。他社との違いを調べ、「自分」とひもづけて、説得力のある志望動機を語ってください。(編集長・木之本敬介)

(写真は、4月下旬に学情が開いた合説「就職博」=2019年4月23日、東京都新宿区)

だんだん深掘り

 ESを提出する段階では、会社についても仕事についても、まだ理解が浅いまま書く学生がたくさんいます。そこは企業もわかっていて、ESの志望動機欄をなくした会社もあります。志望動機は会社説明会や選考の過程で深まればいいと考えているので、面接では徐々に深掘りしてきます。

みずほフィナンシャルグループ】(ESの志望動機欄をなくした理由は?)学生は、セミナーや社員の話を聞くうちに「みずほで働きたい」という気持ちが高まるものだと思います。

ファーストリテイリング】1次面接や2次面接では志望動機が固まっていない学生も多いので、コミュニケーションシート(ES)では聞きません。もちろん当社を就職先として選ぶ段階では何らかのものを持っていてほしいですが。会社を知ってもらうために、選考の途中で店舗に必ず行ってもらうフローを入れています。ユニクロは「店舗インターン」、GUは「店舗訪問」と呼んでいます。

高島屋】(志望動機を書く欄は)ありません。弊社の未来を考え、いろいろな個性が集まって新しい価値を提供できる会社にしたいからです。学生の個性が見えるのは、志望動機よりも「本人が取り組んだこと」です。けっして「志望動機が大事ではない」わけではなく、それは面接で聞くようにしています。

コクヨ】1次面接は基本的な能力、たとえばコミュニケーション能力や論理的な能力を見ています。この段階では、志望動機はそれほど見ていません。選考が進むにつれて志望動機が形成されるのもいいと思っています。2次では、主にコクヨで何をしたいのかを聞きます。そしてマッチングが進み、最終面接を経て「相思相愛」になれれば……という設計をしています。

「志望動機」聞かない会社

 中には「志望動機は聞かない」という会社もあります。
味の素】(志望動機は)想いとして持っていてほしいですが、あまり聞くことはしません。面接を通じて、どんな「人」なのか?と話しているうちに、志望動機も自然と見えてきます。学生もどんな会社か?という事が見えてくると思います。その結果として、彼らの「志」と会社の「志」が自然と重なれば良いと考えています。

全日本空輸(ANA)】志望動機は必ずあるわけですが、その内容について良し悪しを判断するのはフェアではないと考えていて、あえて志望動機を聞かないこともあります。面接官に「志望動機は聞かなくていい」と言ったことが実際にあります。志望動機を聞かれるとどうしても立派なことを言わなければいけないと構えてしまいがちですが、実際には小さい頃の印象が志望に結びついているような人いて、それで善し悪しははかれないとの考え方です。ただし会社をしっかり理解してくれているのか、やりたいことはあるのか、といった点は大変重要なことですので、必ず確認します。

 味の素の場合、どんなことをしてきたのか、「行動原理」をひたすら深掘りするそうです。一方で航空会社志望者の志望動機は「小さいころ飛行機に乗り……」といったものが多く、どうしても似通ってしまいがち。志望動機では判断できないのですね。その分、企業研究をしっかりして、会社と仕事をいかに理解しているかの勝負になります。

志望動機の3ステップ

 実は、志望動機は単純ではなく、いくつか種類があるのを知っていますか? ①なぜこの業界か②なぜ我が社か③我が社で何をしたいか――の3ステップです。

武田薬品工業】(面接では)志望動機をじっくり聞きます。とくに薬学部以外の学生の場合、数多くある業界のなかでどうして製薬業界なのか、その中で「なぜ武田なのか」を聞きます。幼少期に大切な誰かを亡くしたとか、自分が病気になったとか、「医療」「命」に対して特別な思いを持つ人も少なくありません。社会貢献がしたい、人の役に立ちたいという人も多いように思います。病気に苦しむ人の気持ちを理解していること、命の大切さを理解していることは、当社の従業員にとって最も大切なことです。

日鉄物産】学生時代にやってきたことの「感想文」を述べる人が多いのですが、面接は自己表現の場。1人あたり10分~15分しかない面接では、自分の何を知ってもらいたいのかを吟味せねばなりません。表面的なものではなく、それぞれが持っている強みや特性を分析し、企業の求める人物像と照らし合わせ、なぜ商社なのか、なぜ当社なのかを、論理的かつ情熱的に伝えてほしいと思います。

第一生命】生命保険業界を志望する理由で多いのは「人や社会の役に立ちたい」ですね。自分の強みと絡めながら言えるかどうかで差がつきます。「自分の強みは○○である」「第一生命は○○な会社だ」「自分の強みを一番いかせるのは第一生命である」といったところまで伝えることができれば、こちらも納得します。「○○な会社だから魅力がある」というだけよりも、そこまで踏み込んだほうが自分の想いが企業に伝わるのではないでしょうか。

双日】最近よく見るのは「地方を活性化したい」。それ自体はいいことですが、よく見かける内容なので「どこかで誰かが言っていることを真似しているのでは?」と感じてしまう。本心からそう思っているかどうかは、面接で聞いていくことになります。説得力があるのは、やはり自分の体験にひもづけた話ですね。部活でもゼミでもアルバイトでも、そこで何かを真剣に考え、活動していることが大切です。会社で働く上で必要なエッセンスがちりばめられていて、「この学生は大事なことを理解できている」ことが伝わってきます。

 採用ホームページに載っている「会社の良いところ」をいくら語っても面接官には響きません。大事なのは企業研究を深めること。図書館の新聞記事データベースで、志望する会社名を検索窓に入れて1年分の記事を検索してください。ライバルの社名でも検索して、参考になる記事を印字してじっくり読み込みましょう。「なぜこの業界?」「なぜ我が社?」に答える材料がきっと見つかります。もう一つのキーワードは「自分」。自己PR、ガクチカと同じで、志望動機も自分の体験、経験がポイントです。仕事と自分をひもづけて、「我が社で何をしたい?」を考えましょう。あなたにしか語れない志望動機をいま一度整理して、最終面接に備えてください。

みなさんに一言!

 日本航空(JAL)の採用担当者はこう語りました。2014年のインタビューなので状況は異なりますが、「なぜJALか」の大切さは変わりません。
JAL】(ESには)なぜJALかという理由を含め出来るだけ具体的に書いてほしい。JALは一度経営破綻して再建途上にあり、まだまだ社会の目は厳しいところがあります。そういう現状をちゃんと理解したうえで、たとえば「信頼はすぐに回復できるものではないが、自分もグループ社員がベクトルを合わせて一つの目的に向かうところに飛び込んでいきたい。あえて厳しいところで頑張りたい」などということが、過去の具体的なエピソードと絡めながら上滑りせず書かれているものを読むと、覚悟や気概が感じられますね。ここで話し過ぎると、みなさん同じ内容を書いてくるかな……(笑)。

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