人事のホンネ

株式会社ファーストリテイリング

■採用人数
 ――2016年度に入社予定の新卒採用数を教えてください。
 ファーストリテイリングは「ユニクロ」「GU」「リンク・セオリー・ジャパン」という3大ブランド別に採用しています。数は少ないですが、もう一つ「コントワー・デ・コトニエ」というブランドもあり、グループ全体だと1000人くらいです。「地域正社員」は高卒も採用していますし、短大卒や専門学校卒もいますが、大卒がざっと9割弱です。通年採用をしているので、春入社に限らず秋に入社してくる人もいます。

 ――男女比は?
 だいたい1対2ですね。ブランドによって差はありますが、リンク・セオリー・ジャパンやコントワー・デ・コトニエは女性に強いブランドですし、GUも女性向けファッションという認識が強いようで、女性の比率がより高いですね。

 ――女性を多く採ろうという意識があるのですか。
 そのようなことはありません。お客様も男女比半々なので、社員も半々がいいと思っていますが、応募者も採用数も女性が多くなっています。

■採用方法と職種
 ――採用職種を教えてください。
 当社の採用ホームページ(HP)には新卒も中途も店舗スタッフ採用も併記していて職種もたくさんあります。でも、新卒採用は将来的には国内外のさまざまな店舗や本部で働きたいという「グローバルリーダー候補」と、自分の住んでいるエリアから通える店舗でキャリアを積んでいきたい人向けの「地域正社員」の二つだけです。
 中途採用は職種別ですが、新卒採用はいわゆる総合職です。どの仕事にも就くチャンスがあって、自分が何をやりたいかを働きながら会社の中で探せばいい。

 ――大学1年でも採用試験を受けられるんでしたね?
 「グローバルリーダー候補」は通年採用をしていて、大学1年生でも2年生でも、ファーストリテイリングで働きたいと思ったタイミングでいつでも選考が受けられる仕組みです。
 最初に入る会社は4ブランドから選んでもらいます。ファーストリテイリンググループとして基本的には同じ処遇ですが、「ユニクロでグローバルリーダー」「ユニクロで地域正社員」「GUでグローバルリーダー」「GUで地域正社員」「リンク・セオリー・ジャパンで地域正社員」などという形で採用しています。採用活動の途中まではグループ一体でやっていますが、最終的な内定はブランドごとに出します。

 ――ブランドごとの違いは?
 GUはユニクロと同じようなビジネス形態ですが、いま置かれている状況は違う。ユニクロに比べると会社は小さいし仕組みも出来上がっていない部分がありますが、これから海外に積極的に出て行くフェーズです。そういうところに飛び込みたい人はGUを自主的に選んでほしい。一方、ユニクロはある程度仕組みが出来上がっていて、中国や韓国のように海外進出がかなり進んでいる前例もあるのでGUとは雰囲気が違います。
企業としてのフェーズが違うので、学生にはそれを把握して自分で選んでもらいます。入社後、経営幹部に近づいてくると、一緒の扱いになりますが。

 ――ブランド間の人事交流や異動はありますか。
 我々から積極的に異動させることはありませんが、社内公募が半年に1回あって積極的に使われています。社内で今空いているポジション、人がほしいポジションをブランド横断で全社員に公開して応募する仕組みで、店舗業務、店長から本部業務まであります。ユニクロで働いているけれどセオリーやコントワー・デ・コトニエに興味があるからと異動する人、GUで働いているけれどファーストリテイリンググループの人事がやりたいと応募する人もいます。

 ――4ブランド以外にファーストリテイリングの管理部門の採用もあるのですか。
 そこは新卒採用はしていません。基本的には「グローバルリーダー候補」が将来の幹部候補なので本部も含めた重責を担ってもらいます。ただ、新卒社員にはまず私たちの強みである店舗業務をわかってほしいので、店舗に近い仕事から入ってもらいます。新卒社員育成のスピードアップを今考えているので、今後変わるかもしれませんが。
 店舗と本部のどちらが偉いということはありません。早い人だと3年程度で本部に異動してきます。一方で店長として海外に赴任する人もいて、3~4年目で自分のやりたいキャリアに向かって異動するケースが多いと思います。

 ――採用人数のブランド別比率は?
 公開していませんが、一番多いのはユニクロです。国内の店舗数はGUが300でユニクロは850。社長の柳井も言うように、ユニクロは日本ではもう店舗を増やすのではなく育てた人材を海外に送るフェーズですが、GUはまだ国内に店を出す余地があるので結構採用しています。

全学年対象の通年採用は学業重視 就職意識したときに受けて

■通年採用
 ――全学年対象の選考はいつから始めたのですか。
 2013年春入社からです。1~3年生で内定を取って入社した社員の数が通算で100人を超えたところです。

 ――入社までに気が変わる学生もいるのでは?
 内定後の辞退者はあまりいません。我々の仕事や商品が好きで会社に魅力を感じて来る人が多いし、内定者には繁忙期のアルバイトを頼むなど、会社のことをより知ってもらう機会が増えますから。

 ――なぜ通年採用を始めたのですか。
 就職したいタイミング、就社を考えるタイミング、将来のことを考えるタイミングって人によって絶対違いますよね。それぞれのタイミングに合わせて情報を提供したいし、決めたいと思ったタイミングで決めたほうがいいと思うからです。

 ――大学を卒業できなかったら?
 きちんと卒業してほしいのですが、人のパフォーマンスは出身大学で決まるものではないので、内定後に卒業できなくても理由によっては内定は取り消しません。「ただ大学が嫌になったから」「単位が足りなかったから」では困りますが、ほとんどが卒業して入社します。

 ――評判はどうですか。
 自分のタイミングで就職を決められて4年生で学業や部活に専念できるので、受けた学生の評判はいいですよ。ただ、世間一般的には「経団連指針」を逸脱していると見られがちで、学業重視の理念を無視しているという批判も受けます。ただ我々には、理念を尊重しているからこそ通年採用をしているという思いがあります。2015年の就活は多くの会社が8月で選考を終えたと思いますが、我々は11~12月までやりました。学業に一番影響のない時期を選んで来てほしいし、指針の理念は尊重しているつもりですが、理解していただくのが難しいこともあります。

 ――指針についてはどう思いますか。
 理念は正しいと思っています。そもそも学生はちゃんと勉強すべきです。また、日本独特と言われる新卒一括採用だからこそ今の日本があるし、海外と比べると大学生の就職率は非常に高い。私はカナダの採用プロジェクトにも関与していますが、カナダでは大学生が卒業後すぐ就職できるほうがまれです。みんな海外旅行などで自分探しをして、なんとか中途採用の枠に潜り込もうとするので大変です。日本の学生は恵まれているし、一括採用には良い点がたくさんあると思います。
 でも、仕事のことを意識しはじめるタイミングは各自バラバラのはず。意識し始めたときにいろいろ調べて就職活動するのがベストですよね。今の仕組みだと、まだ仕事について考えていない人が周りに流されて右も左もわからないまま就活したり、逆に早くから仕事のことを考えたいけれどそういう情報を提供する会社が一部のITベンチャーや外資系企業しかなくて、そういう会社に人材が流れたりもしている。そう考えると、一括採用も良いことばかりではありませんよね。

 ――各社が通年採用を始めたらどうなるでしょう?
 いつでもチャンスがあるよと言われれば、ずっと就活をしているような状況はなくなるんじゃないでしょうか。人気はあるけど低成長の会社、まだ人気はないけれど急成長している会社があって、それぞれどういう採用になるか興味があります。

 ――通年採用は柳井社長の発想ですか。
 社内で議論はありましたが、柳井は賛成でした。みんな一斉にやるシステムはおかしい、やりたいときにやるべきだという考えですね。柳井が現場にいたころはアルバイトの優秀な子に声をかけて採用してきたわけで、早くから優秀な学生を見つけて一緒に働きたいという思いもあると思います。

■スケジュール
 ――採用の流れを教えてください。
 最初に「希望塾」というイベントを開催します。柳井のスピーチから始まり、職種ごとに10くらいブースをつくって学生に回ってもらう。自社でジョブフェアをやっているイメージです。選考は一切しないし参加しなくても選考には進めます。

 ――ブースごとに仕事の説明を聞くんですか。
 2015年12月の「希望塾」ではプロジェクトごとにブースを出しました。たとえばフランスのデザイナー、ルメール氏とのコラボレーションに関わった社員が彼とどう組んで仕事を進めたのかとか、地域密着に成功している吉祥寺店の社員は何にこだわってやったのかとか、そういうことを語れる社員をブースに配置しました。本部の経営者や海外の店舗責任者とライブでつないで直接コミュニケーションできるブースも用意しました。ブースを回りながら「働くってどういうことなのか」「ファーストリテイリングで働いたらどういうことができるんだろう」と学生に感じてもらう。

 ――参加人数は?
 毎回800~1000人くらいですね。場所は本部のある東京ミッドタウンで、全部で3時間強のプログラムです。3~4カ月に1回くらい開催していて、2016年卒採用だと12月、4月、7月と開きました。

 ――応募すれば誰でも参加できる?
 人数のコントロールが必要な場合は締め切りますが、ある程度人数が増えても対応できるので可能な限り受け入れています。

 ――「希望塾」の後はどんなスケジュールでしたか。
 会社説明会をやりながら、学生が選考に進みたいと思ったタイミングで選考に進んでもらいます。1月以降は会社説明会を開きながら選考もオープンにしていきました。

 ――「希望塾」以外に会社説明会もあるのですか。
 はい、随時やっています。「希望塾」に参加した人はそのまま面接に来てもいいし、もう1回会社説明会に来てもいい。12月に会社説明会をしても学生が必ずしもそのタイミングで就活をしたいわけではありません。1、2年生もいるし広報解禁後の4~5月に来たい学生もいるので、好きなタイミングで来てくださいというふうにしていました。

 ――選考の面接を受けたくなったら学生が自分で申し込むんですか。
 そうです。当社のエントリーシート(ES)はあくまで面接の参考資料なので、面接のときに持ってきてもらいます。