人事のホンネ

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【特別編 Part10】
「他社と我が社どっち」には「第1志望」って言わないと落ちる?

2019年06月05日

 6月1日に面接が解禁され、経団連加盟の大手企業も続々と内々定(内定)を出し始めました。最終面接では、たいてい他社の選考状況を聞かれます。悩ましいのが「うちと他社と両方内定したらどうする?」への対応です。「人事のホンネ」特別編の第10回は、就活生みんなが悩む「第1志望って言わないと落とされる?」問題についてアドバイスします。(編集長・木之本敬介)

(写真は、採用選考が解禁され面接に訪れた大学生ら=6月1日、東京都新宿区の損害保険ジャパン日本興亜の本社)

ウソでもいいから…

 まだ内定を持っていない就活生からこの質問を受けると、私はたいていの場合、「ウソでもいいから、第1志望と言ったほうがいい」と答えています。そう言わないと内定を得られない会社があるからです。人気企業では、多くの学生が「第1志望」と答えます。そうではない学生はよほど魅力的じゃないと採る理由がありません。「営業職だから、ウソでも『第1志望です』と言い切ってしまう人がほしい」という企業まであります。「第1志望」に対する答えは、ウソである可能性も織り込み済みということですね。

 しかし、例外もあります。
オリエンタルランド】お願いしたいのは、本音で話してほしいということ。「第1志望です」と言っていただけるのは嬉しいのですが、「他社も受けていて、まだ迷っています」と正直に言ってもらって構いません。第1志望と言わなければ落とす、なんてこともありません。内定を出した後に「実は……」ということもあるので、本当の思いを聞かせてほしいですね。

 オリエンタルランドはじっくり時間をかけた個人面接をします。根掘り葉掘り、深掘りされますから、ウソはばれます。「特別編Part7『面接はありのままで』の落とし穴!万全の準備で初めて『自然体』」でも書きましたが、本音で話さないと評価すらしてもらえません。面接だけでなく、それまでの間に採用担当者らと打ち解けて話す機会があった場合は、正直に話したほうがいいでしょう。そんな会社の担当者なら、親身になって一緒に考えてくれるはずです。

丁寧な意志確認でミスマッチ防ぐ

 ミスマッチを防ぐために、最終面接の後の意思確認を丁寧にする会社もあります。この段階になったら、腹を割って話すしかありません。納得いくまで話し合いましょう。
大和ハウス工業】最終面接後に合格通知を出し、当社に来る意思を確認します。他社の選考もあるでしょうし、学生に考えてもらうわけです。「決めました」と言ってもらえれば、「では、もう一度会いましょう」と面談します。面談では「大和ハウスはこういう会社で、こういう気持ちがないと続かないよ」といった説明をきちんとします。「まだ気持ちが固まっていないな」と判断したら、一度帰ってもらうこともあります。私たちの意図がうまく伝わっていないようなら何回でも会います。考えが合わなかったり共感できなかったりして、辞退する学生もいます。(辞退の)大半は仕事を「きれい」に見ているケースですね。「街をつくる大きなプロジェクトがあって、将来リーダーを任されて、社会の役に立つ……」といったイメージしか持っていない人がいます。しかし、現実には「きれいな仕事」だけでなく、「泥臭い仕事」もたくさんあります。企業と学生双方にとって良い道は何なのかを考えて接しているので、「国土交通省や地方自治体、NPOに行った方が良いかもしれないな」と思った時は、評価の高い学生でも、そちらの方面へ進めるようアドバイスすることもあります。

ウソがばれるケースは…

 いくら口では「第1志望です」と強調しても、説得力をもって語れなければバレバレです。
アイリスオーヤマ】個人面接では、本人の考え方やどんな経験をしてきたかを一歩踏み込んで聞きます。志望理由や受けている業界を聞いて志望度も見ます。他にはメーカーを1社も受けていないのに「第1志望です」と言う人がいますが、嘘をついていると分かります。ホームページに書いてあるようなことばかりいう人、会社には触れずに業界のことばかり話す人。たとえば「生活を豊かにしたい」としか言えない人は、ウチには興味ないのかなと思います。

 学生優位の「売り手市場」が続いているからか、たくさんの業界のトップ企業ばかりを受ける学生が増えているそうです。当然、いずれの業界の志望動機も浅くなります。こんな応募の仕方では、いつまでたっても内定は得られないでしょう。

 一方で、 まったく異なる業界を受けていても、きちんと筋が通った説明ができれば問題ありません。
ぴあ】全くちがう業種の企業と弊社を受けている学生には「なぜ、どういう考えでこの2社を受けているの?」と問います。やっていることも提供しているものも全然違うのに、学生の言葉で語られると、“なるほどね、君はそういう考え方であの会社とうちの会社に共通点を見いだしているんだ”と思えることがある。納得できる考え方がその人の中にあることが大切です。

みなさんに一言!

 「第1志望だと、あんなに言い切っていたのに……」。多くの採用担当者は内定辞退に心が折れると言います。
 企業がルールを決め、選考基準も合否の理由も明確に示されない就活は、採用する側の企業が圧倒的に有利なゲームです。ところが、内定を出した途端に立場は逆転し、内定を得た学生に決定権が移ります。だからといって、内定をいくつも持ち続けるのはマナー違反です。すでに志望度の高い企業の内定を得ている人は、入社する可能性がない企業については選考の段階でお断りすべきです。内定辞退もできるだけ早く伝えるようにしてください。

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【特別編 Part10】