人事のホンネ

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【特別編 Part11】
「どんな仕事」より「誰と働くか」で会社決めた先輩の話

2019年06月12日

 6月も中旬に入り、複数の内々定(内定)をゲットしたものの、どの会社にしようか迷っている人がいると思います。企業の業務内容、将来性、仕事内容を比べて、「どの会社、どの仕事が自分に合うのか」と思い悩んでいる人もいるでしょう。そんなとき、単純に「人」で選ぶのも手です。「人事のホンネ」では採用担当者自身の就活を振り返ってもらいますが、意外なほど多いのが「この会社にした決め手は『人の魅力』でした」という答えなんです。今回は、「どんな仕事をするか」より「誰と働くか」で会社を決めた先輩たちのお話です。参考にしてください。(編集長・木之本敬介)

(写真は、採用選考が解禁され面接に訪れた大学生ら=6月1日、東京都新宿区の損害保険ジャパン日本興亜の本社)

「こういう人たちと一緒に働きたい」

 まず、違う業界の企業に内定した先輩の例を紹介します。
森永乳業】第1志望は自動車メーカーで、内定もいただきました。最終的に森永乳業に決めたのは、「人の魅力」でした。面接や選考中の質問会で会うどの社員とも自然体で話せ、面接でも楽しく会話ができました。「こういう人たちと一緒に働きたい」と思ったんです。理屈ではないですね。最後は迷いはありませんでした。

カルビー】テニスに打ち込んでいたのでスポーツを軸にするか、食べることが好きなので食に関わることをしたいと思っていました。消費者に近い仕事をしたかったので、スポーツメーカーと食品メーカーを受けました。数十社にESを出し、面接に進んだのは10社くらい、内定は3社からいただきました。スポーツメーカーはメイン事業がテニスではなく、テニス以外の部署に配属されたら興味が持てるだろうかと。カルビーはどの部署に行っても、大好きなカルビーのお菓子が軸にあるので頑張れそうだと思いました。会う人、会う人がすごくいい方で、「こんな環境なら頑張れるかな」と思ったのも決め手でした。

説明会で出会った社員が…

 会社説明会やOB・OG訪問で会った社員の魅力で、第1志望を決めた人も多いと思います。
サイバーエージェント】就活ではIT、金融、マーケティング、商社、ブライダルなど「全業界・全業種を見よう」と決め、多いときは1日3社の会社説明会に行きました。そこで人事の人に「将来の夢は何ですか」と尋ねて、どこへ向かって仕事をしているか確認しました。サイバーエージェントの人が真剣に「俺の夢はサムライになること。死ぬときは前向きに倒れるんだ」と恥ずかしげもなく語っていて、「なんてカッコいいんだ」と(笑)。人に魅力を感じ、自分がしたい仕事をできるのはここしかない、という思いから第1志望にしました。

日鉄物産】あらゆる業界・企業を見た中で、直感で「いいな」と思ったうちの一社が住金物産(当時)でした。特に社員の魅力が断トツだったんです。説明会に来ていた先輩社員にひかれたのですが、話に深みがあって、その人を中心にビジネスが回っている様子を思い描けました。人事部に「他の社員にも会わせてください」とお願いし、6人の社員と会わせてもらいました。いろんな人と会う中で、「おごらない誇りがある」「小さな仕事でも信頼関係をつくって大事にしている」と感じたことを今でも覚えています。

「3人会うと社風がわかる」

伊藤忠商事】就職活動では、「その会社に入ると何ができるか」も重要と言われますが、私は「どんな人とどんな環境で仕事ができるか」も大事だと思います。就活は結婚と似ていて、会社全体の見栄えがいかによくても、自分の価値観との共通点がない会社に入ると、本人も会社もお互いに幸福になれない気がします。

 総合職で入社すると、希望する職種とはまったく違う仕事につくことがあります。「営業志望」や「企画開発志望」で入社しても、経理や総務を担当するかもしれず、仕事内容はかなり異なります。一方で、一緒に働く先輩社員とは長いお付き合いになります。だから、「誰と働くか」はみなさんにとって極めて重要なんです。大企業だと数千人いますから、一人に会っただけで社風を決めつけるのはリスキーですが、説明会や選考の過程で何人もの社員に接していると、「こんな人たち」が見えてくるはずです。

第一生命】小学校から大学まで野球をしました。高校は全く強くないチームで、自分を含めて並の選手しかおらず、入学と同時に甲子園を諦めていたんです。それでも奇跡的に甲子園に出場できた。その経験から、チームワーク力の素晴らしさを学びました。チームワークには「人」が大事なので、就活でも「徹底的に人を見てやろう」と思い、いろんな会社のいろんな人に会いました。とりあえず社員との接点を持って、「この会社はどんな人が多いのか」を徹底的に観察しました。その結果、第一生命に決めました。決め手は「人」でした。優秀な人が多いことと、強いこだわりを持ちつつも、ひとりよがりじゃない人が多いことです。チームワークを重視しそうな人が多かったですね。(第一生命の社員には)延べ20人くらいは会いました。他の会社も含めると100人以上の社員に会ったと思います。

【伊藤忠商事】どの会社も3人会うと社風が伝わってくることが分かりました。だいたい似た感じ、タイプの方が3名出てくる。たとえば銀行の若手、中堅、ベテランクラスに会うと、だいたい雰囲気が同じなんです。ところが伊藤忠だけ、会った3人のカラーが全く違っていた。最初に会った若手はさわやかラガーマンタイプ。帰国子女で、首が太くて日焼けして歯が白い! ところが2人目は、大学の落語研究会出身の方で、ひょろっとしていて、開口一番「仕事忙しくて大変だよ~」と。終始ニコニコしながら、自分の仕事のやりがいについてざっくばらんに話してくれました。3人目は課長クラス。今度は一転して無口なタイプで、理知的で頭が切れそうな方でした。
 面白いな!と思いました。こんな会社、他にない、と。聞いたところ、「そうなんだよ。でも、皆、自分の仕事に誇りを持っている。任された仕事は何が何でもやり通そうとする。そのための努力は決して惜しまない。君はそんな世界で自分を試したいと思わないか? 君にそれができるか?」と目を見て言われ、かっこいいなと。それで一気に伊藤忠に行きたくなったんです。

 今から100人に会うのは無理でしょうが、迷っている人は内定先の採用担当者に「○○な社員を紹介してもらえませんか」と頼んでみましょう。まともな会社なら紹介してくれるはずです。

BtoBだから…

 BtoB(企業間取引)企業の場合、「人の魅力」がより重要という面もあるようです。
デンソー】何人ものOBに会っていくうち、最終面接のときには心の底から「絶対デンソーに入りたい」と思っていました。「こうしたい」とはっきり言うタイプだったので、「出る杭を打たない会社」に行きたいと思っていました。デンソーのリクルーターの先輩は、みんな自分の仕事に誇りを持ち、若いうちから仕事を任されていました。自分の意見を言うことがよしとされる文化があって、他の会社と圧倒的に差別化されていると感じました。こういう人たちの間で働けば、「こうなりたい」と伝えることができ、自分の個性が生きるんじゃないかと思いました。自動車が好きとか地元に戻りたいということより、この会社の人たちと一緒に働きたい、こういう社会人になりたいという気持ちが強かったんです。
 学生のみなさんには、とにかく社員に会ってほしいと思います。採用ホームページはどの会社もきれいにつくっていますが、会社の価値観や深さは社員に会わないと分かりません。「この人みたいになりたい」「この人と働きたい」と思えるかがとても大事です。とくにデンソーは、商品があるBtoC(一般消費者向け)企業と違って表面的には分かりづらいので、学生のみなさんは仕事のことをよく知りません。内定者アンケートでは、うちに入ってくる過半数が「人の魅力」にひかれたと答えています。

みなさんに一言!

 一緒に内定した同期たちとの関係から判断した人もいます。
ワコール】どんな人と働くか。どんな仕事をするにも誰とするかがセットです。ワコールの社員と接する中で、どの社員にも熱い部分があって仕事のことをイキイキと話す人が多く、何より学生の自分と同じ目線で伝えてくれる方が多いと感じました。最終的に外資系のメーカーと迷いましたが、決め手は飲み会でした(笑)。内定者懇親会のあと、内定者だけで2次会に行ったときになんと爆睡してしまったんです。翌日、楽しかった印象だけ強く残っていました。酔いつぶれたわけではなく、気持ちよく寝てしまったんです。初対面の人たちの前で爆睡できたのは、よっぽど安心したか、信頼できたか……何かしらポジティブな感情だろうと思いました。同期にこれだけ心許せる雰囲気なら、先輩や上司とも安心できる人間関係が築けるんじゃないかと思い、電話で「行きます!」と返事をしました(笑)。

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