人事のホンネ

株式会社デンソー

2019シーズン【第6回 デンソー】
世界標準つくる! BtoBならではの踏み込んだコミュ力必要

人事部 人員計画・採用室 採用1課長 北村雅美(きたむら・まさみ)さん

2018年01月23日

 企業の採用担当者に直撃インタビューする人気企画「人事のホンネ」。2019シーズン第6弾は、自動車部品国内最大手のデンソーです。トヨタグループの中核企業ですが、いまや世界中のカーメーカーにネットワークを広げる巨大グローバル企業。「一歩踏み込んだコミュニケーション」に秘訣がありました。(編集長・木之本敬介)

■採用実績
 ――採用実績を教えてください。
 2018年卒の新卒入社予定は、事務系総合職が58人(男性34、女性24)、技術系総合職は414人(男性357、女性57)です。2017年卒の新卒入社は、事務系総合職58人(男性30、女性28)、技術系総合職337人(男性285、女性52)でした。事務系は横ばい、技術系は増加傾向にあります。

 ――事務系総合職は女性が増えているようですね。
 2014年に全社プロジェクト組織としてダイバーシティ推進室ができて、私も育児とキャリアの両立経験を生かしてほしいという期待を受けて参画しました。当時33人だった女性管理職を2020年までに3倍の100人にする目標を立てました。女性の積極採用も打ち出し、新卒の事務系総合職で40%以上、技術系総合職では15%以上の目標を立てています。

 ――女性社員が増えるとどんなメリットが?
 社会や消費者の構成に近いほうが良いサービスを届けられます。昔は運転免許を持つ女性は多くありませんでしたが、今はドライバーの半分が女性です。駐車や狭い道の運転が苦手な女性も多く、その気持ちが分かる意味でも技術者、事務職ともに女性が多くなれば社会の価値観に近づけます。
 ライフイベントを経験した働く女性は、限られた時間で働く集中力が高いので生産性が高いという面もあります。男女どちらが優れているということではありませんが、女性には男性と違うマネジメント能力があります。私もそうですが、子育て経験がある女性が管理職になると愛情をもって部下を育てることができると思います。女性が一定比率いるのは、サービス、マネジメント、人材育成の面でも有効なんです。

 ――デンソーもかつては「男性社会」だったのでしょうね。
 技術系は特に女性が少なくて、新卒採用は2ケタいくかどうかでした。事務系も私の同期は135人のうち女性は5人でした。車好きの女性は男性ほど多くありませんし、自動車業界を志す人自体が少なかったですね。
 今でも最初から興味をもっている女性は決して多くありませんが、2016年に経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれたのが大きな節目でした。性別、国籍、年齢を問わず誰もが活躍できる会社という点に、魅力を感じてくれる学生が多くなった印象があります。ロールモデルとなる先輩女性社員が語りかけるイベントも開いています。

 ――どの会社も「リケジョ(理系女子)」を求めていますから、技術職では取り合いでは?
 機械、電気など車に近い分野を学ぶ女子学生は数が限られているので、農学、化学などを専攻する女性を受け入れて数を増やしています。会社に入ると40年間、学ぶ機会はたくさんあります。大学時代の学びの領域が自動車に直結していない学生にも、自動車業界やクルマ社会に興味を持ってほしいと考えています。
 自動車業界は、自動運転、電動化など面白い時代にあります。車というインフラが社会に様々なサービスを提供するようになります。大学で学んだことや理系の基礎的な知識は生かしつつ、変わっていくクルマ社会で新しいことにチャレンジしたい人を受け入れています。

 ――学部の指定はないのですか。
 ありません。機械と電気電子が中心ですが、車が社会とつながる時代ですから情報通信系の学生も増えています。ソフトの勉強をしている学生も積極的に採用したいですね。

■インターンシップ
 ――エントリー数の増減は?
 ほぼ横ばいです。最近はインターンシップが広がってきたため、企業広報解禁の3月までに、行きたい業界、会社を絞り込んでいる傾向があるように思います。

 ――そのインターンについて教えてください。
 事務系は、年間を通して、3日間のインターンを10回ほど実施しています。中身はデンソーの歴史やDNA、営業、グローバル業務を体験するワークで各回30人規模です。技術系のインターンは2週間、3週間の長期型もありますが、今年から1日のインターンも始めました。

 ――内定者にはインターン参加者が多いのでしょうね。
 そうでもありませんが、インターンは自分が挑戦したい会社かどうかを理解する場として有効です。インターンに参加して「デンソーっていい会社」と感じたら、ぜひ応募してほしいですね。

夢を学生時代に見つけた人は会社でも見つけられる

■エントリーシート
 ――採用スケジュールを教えてください。
 エントリーシート(ES)は1次募集、2次募集と、締め切りを分けて設けています。2018年卒採用では1回目が3月下旬でしたが、2回目の時期は状況によって変わります。その後、書類選考、適性検査、セミナー、社員との面談と続いていきます。

 ――ESを拝見すると、「大学生活での大きなチャレンジ」欄に「チャレンジ目標」を書かせて、さらに「なぜその目標なのか」「目標を達成するためにどう考え、どう行動し、どんな結果だったのか」を書く欄があります。これって、PDCAサイクル(Plan〈計画〉→Do〈実行〉→Check〈評価〉→Action〈改善〉の順に行う業務管理手法)を求めているのですか。
 そうですね。「自ら学び、自ら考え、新たな価値の実現に向け挑戦し続けていく人」を求めています。具体的に期待する能力は、「志を貫く力」「考え抜く力」「周囲に働きかける力」の三つ。これをベースに、どんな目標をもってチャレンジしているのかを知りたいので、こういう項目にしています。

 ――事務系のESには「集団の中でどういう役割を果たすことが多いですか。エピソードも」という欄があります。
 「周囲に働きかける力」を知りたいんです。デンソーはチームワークを大切にする会社です。仲間と共に夢を実現するために、どのような想いや姿勢で取り組んでいるかを確認しています。

 ――「海外経験」の欄もありますね。
 グローバル企業なので、グローバルなフィールドでチャレンジしたい人が多く応募します。海外でのインターン、留学経験などを書く人が多いですね。

■面接
 ――面接はどんな形式ですか。
 面接は原則2回。じっくり話を聞きたいので、集団面接はなく1対1で40~50分とっています。
 面接でも、「志を貫く力」「考え抜く力」「周囲に働きかける力」の三つを確認します。

 ――「デンソーでやりたいこと」は聞かない?
 就活の段階で既に自分がやりたいことがはっきりしている人には聞きます。一方で、入社後に幅広くいろいろなことにチャレンジしてみたいという人には、学生時代に自分なりの夢を持ってやってきたかを聞きます。そこで夢を見つけた人は、会社でも夢を見つけられると思います。

 ――「求める人材」の中に「一歩踏み込んだコミュニケーション」という表現があります。何でしょう?
 グローバル企業ですから、海外の方と仕事をする機会が多くあります。ダイバーシティ重視で社内にもいろんな社員がいるので、相手に合わせたコミュニケーションとか、相手をモチベートして一緒にやる気になってもらうコミュニケーションをとれるかを確認します。自分が正しいと思うことを伝えるだけではなく、伝わるコミュニケーションです。「伝える」ことと「伝わる」ことは違います。話すことだけでなく行動もコミュニケーションです。

 ――学生時代にチームのモチベーションを上げるためにやったこととかを確認する?
 そういったことを聞きますね。「サークルで何か課題があって意見が合わないとき、あなたはどう行動しましたか」とか、「後輩一人ひとりに、あなたはどう成長を促していますか」とか。

 ――「一歩踏み込んだコミュニケーション」はBtoB(企業間取引)企業だから必要なんでしょうか。
 BtoBのビジネスではお客様と深い信頼関係を築かないと契約を取れません。上辺だけでないコミュニケーション能力が必要なんです。デンソーでは営業だけではなく、工場と工場、購買と購買、技術と技術など各階層の社員一人ひとりがお客様と深くつながっています。常に数時間単位でモノをやりとりしているし、何か問題があればすべての階層で対応が必要です。「カンバン方式」は横のつながりで密に連絡していないと成り立ちません。
 多くのグローバル企業が苦労しているのがこの点です。この力があるからデンソーは日本中、世界中のカーメーカーとネットワークを築けています。デンソーは社内でも社外でもFace to Faceの関係を重視します。海外の社員を日本に呼んでグローバルカンファレンスを頻繁に開きます。最近は効率化のためにやらない企業が多いのですが、デンソーではむしろ力を入れています。

 ――グローバル企業ですから英語力も重視するのでしょうね。
 グローバルに活躍するためには必要な能力の一つだと考えています。ただ、学生から「英語は何点必要ですか?」とよく聞かれますが、英語の点数だけで門前払いするようなことはありません。英語は、学ぶ意欲と基礎力があれば会社に入ってから学べます。でも、「期待する能力」のような本質は簡単には変わりません。学生時代に目標を持ってチャレンジしてこなかった人に、会社に入ってから「高い目標を持ちましょう」と言っても難しい。人付き合いが得意じゃない人に「コミュニケーションが大事」と言っても本質は変わりません。だから、ひたすら必要なポテンシャルを持った人を見極めます。

 ――本質をどうやって見極めますか。
 深く聞き出すために1対1の面接にしています。「なぜあなたはそう考えたの?」とか「なぜ」を聞きます。私が面接をするときは「なんでこの大学のこの専攻?」など、モチベーションの源泉やそこに至った原体験を、時に幼少期の体験までさかのぼって聞きます。そうすることで本質的な思考も分かってきます。面接で「じっくり話を聞いてもらえた」と言って帰る学生が多いですね。

 ――ニュースや世の中への関心は問いますか。
 何かを一生懸命にやっている人なら、採用の過程では重視していません。ただ、学生から「入社するまでに何を学んだらいいですか」と聞かれたときには二つのことをアドバイスします。一つは英語が得意じゃない人は勉強しておくといい、ということ。どの部署でも必ず海外と関わるので。もう一つは、社会の動きに対してアンテナを広げること。自動車関連だけでも、日々たくさんのニュースがあります。新聞を読んで自分なりの問題意識を持ってほしいですね。
 今の学生は二極化していて、ちゃんと新聞を読んでいて「御社は最近新しい会社をつくりましたが、どうですか?」と質問をしてくる学生がいる一方で、まったく知らない学生もいます。