2016年10月14日

政府の「働き方改革」って何?なぜ?

テーマ:経済

ニュースのポイント

 安倍晋三首相が、働く人たちと意見を交換しました。「働き方改革」を政権の最重要政策に掲げているからです。特に、非正規社員の待遇改善につなげる同一労働同一賃金を実現すること、ワークライフバランスをとるために長時間労働をなくすこと、「多様な働き方」ができるように労働市場を流動化させることなどを目指しています。狙い通り実現すれば、「大企業の正社員にならなければ」という就活生のプレッシャーは薄らぎます。ただ、政治がかけ声をかけても実現する保証はありません。(朝日新聞社教育コーディネーター 一色清)

 今日取り上げるのは、総合面(5面)の「働き方 多様な声 12人 首相と意見交換会 今後は非正規なども議論」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。

(写真は、首相官邸で話す安倍首相と参加者です)

働き方改革こそ成長戦略

 政府が働き方改革に力を入れるのは、これまでの成長戦略が効果を発揮しなかったためです。手詰まりの中、「働き方を変えることこそ成長戦略」という経済界の声に乗った、という側面があります。政府には、日本の大企業は未だに年功序列型賃金で、中途採用はあまりせず、企業内で職業訓練をし、雇用調整はパートタイマーで行う――という認識があります。これでは成長分野への労働力の移動が難しく、大企業の正社員以外の人材が活かされないというわけです。

同一労働同一賃金への異論

 ただ具体的な改革は簡単ではありません。まず、同一労働同一賃金です。総論では反対する人は少ないでしょうが、各論になると異論が出るでしょう。たとえば、正規と非正規が同じ仕事をしていたとしても、責任の大きさが違えば同一労働ではない、という考え方も成り立ちます。

 そもそも同一労働同一賃金が厳密に適用されるのなら、非正規という形式自体が不要では?という意見もあります。労働者側としては「非正規の人を正規にすればいい」ということになりますし、経営側としては」非正規の待遇を向上させる分、正社員の待遇を落とさざるを得ない」となるでしょう。

わかっていてもできない残業ゼロ

 長時間労働をなくすことも、総論は賛成でしょうが、各論になるとスンナリいきそうにありません。まず、人を増やす必要があります。残業代稼ぎでダラダラと仕事をしているのは別ですが、残業しなければ終わらない仕事を抱える職場は、人が足りないためだと考えられます。もちろん人を増やすことには、経営側に抵抗感があります。

 残業がなくならないもう一つの理由は、社員の意識です。自分の存在をアピールするために多くの仕事を抱え込み、人に任せない人がいます。こういう人の意識を変えるのは簡単ではありません。結局、人を増やし、不必要な仕事を削り、うまく仕事をシェアすれば長時間労働はなくなることが分かっていても、できないのが日本の会社なのです。

流動化も簡単ではない

 多様な働き方も難題です。働ける時間や場所が限られる場合は、非正規になりがちです。転職市場では、特別な技能や経験がなければ、魅力的な求人はわずかになります。特に中高年の方の転職は簡単ではありません。職業訓練の機会や再就職のコンサル機能をもっともっと充実させないと、流動化はなかなか進まないでしょう。

働き方改革をわがこととして

 悲観的な見方ばかりしてしまいましたが、政府が取り組もうとしている方向は悪くないと思います。簡単ではないにしても、非正規の待遇改善、残業時間の減少、労働市場の流動化はゆっくりとは進むのではないでしょうか。就活生はこうした議論をわがこととして、志望する会社の社員がどういう働き方をしているのかをよく調べてみてください。

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