2016年07月14日

「天皇陛下退位の意向」 なに、なぜ、どうなる?

テーマ:社会

ニュースのポイント

 天皇陛下が、天皇の位を皇太子さまに譲る「生前退位」の意向を示していることがわかりました。82歳という高齢になり、今後公務を十分に果たせなくなるのなら退位して皇位を円滑に継承したほうがいいのではないか、という考えのようです。ただ、皇室制度を定めた「皇室典範」に天皇の退位についての規定はなく、実現には改正が必要です。「日本国民統合の象徴」である天皇のあり方についての議論が始まります。生前退位とは何なのか、なぜ退位しようとしているのか、今後どうなるのか。ポイントをわかりやすく整理します。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面トップの「天皇陛下 生前退位の意向/皇后さまと皇太子さまに伝える/皇室典範の改正 課題に」です。「時時刻刻・陛下82歳 公務も変化」(2面)、「生前退位 各国で例」(3面)、「『陛下退位意向』海外も速報」(11面)、「公務負担・体調 心配の声」(39面)も関連記事です(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)。

天皇陛下は忙しい

 震災や水害などの被災地に天皇、皇后両陛下が訪れて、被災者を励ますニュースをよく見ますよね(写真は今年5月、熊本地震の避難所での天皇陛下)。「全国植樹祭」「国民体育大会」など毎年恒例の行事のほか、昨年はパラオ、今年はフィリピンを訪問するなど太平洋戦争の戦没者慰霊の旅もライフワークとして続けています。首相の任命、国会召集など憲法で定めた国事行為、国内外各地への訪問、式典出席といった公的行為のほかに、プライベートな外出や宮中祭祀(さいし)などの私的行為もあって、天皇陛下はとても忙しいのです。
 2012年に心臓の手術を受けてから、宮内庁は公務の回数を減らし、恒例行事での「おことば」を原則廃止するなど負担軽減を進めてきました。ただ、陛下は「負担の軽減は、公平の原則を踏まえてしなければならないので、十分に考えてしなくてはいけません」と述べるなど、天皇の務めを果たすことに強い気持ちを示してきました。
 健康上の理由などで天皇が国事行為をできないときには「摂政(せっしょう)」を置くことができますが、天皇陛下は昭和天皇が大正天皇の摂政を務めた詳しい経緯などを調べたうえで、現代にふさわしい皇室のあり方を模索し、生前退位を考えるようになったようです。

歴史上は?海外は?

 今日の2面の記事から皇室の歴史を抜粋すると、125代の歴代天皇のうち半数が生前に譲位(退位)しているそうです。最後に生前退位したのは江戸時代後期、第119代の光格天皇。三十数年間在位した後、1817年に退位し太上(だいじょう)天皇(上皇)となって1840年になくなりました。明治時代に制定された旧皇室典範で皇位継承は天皇の死去によるとされ、約200年間、譲位は行われていません。古来の制度では天皇と太上天皇はほぼ同等の権限を持つとされていたため、「院政」による政治構造の二極化を避けようとしたためとも言われています。今の皇室典範でも譲位は想定していません。
 一方で王室がある欧州や中東などの国では、たびたび生前退位が行われています。国王の高齢や健康上の理由、政変など事情は様々です(表参照)。

実現すれば「平成」から新元号に

 生前退位を実現するには、皇室典範を改正しなければなりません。皇室典範については、女性天皇や女性宮家(みやけ)創設などをめぐって有識者会議などで議論されたことがありますが、結論は先送りされてきました。今回も政権内で有識者会議の設置などが検討される可能性がありますが、慎重論もあるでしょうから時間はかかりそうです。菅義偉官房長官は14日午前の記者会見で、皇室典範の改正について「考えていない」と述べました。
 また、1979年に制定された元号法では「皇位の継承があった場合に限り改める」と定められているため、生前退位が行われると元号は今の「平成」から新たな元号に変わることになります。

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