2016年12月08日

トランプ氏が「偉大な男」と呼ぶソフトバンク孫社長の投資戦略

テーマ:経済

ニュースのポイント

 ソフトバンクグループの孫正義社長がトランプ次期米大統領と会談し、今後4年間のうちに米国で500億ドル(約5兆7000億円)規模の巨額の投資をすると伝えました。喜んだトランプ氏に「マサは偉大な男だ」とまで言わせた孫氏は今年、各国の首脳と次々に会談したほか、世界最大級の10兆円規模の投資ファンド設立など、世界を股にかけた派手な話題をふりまいています。最近の孫氏の動きから、最新の経済のトレンドを学びましょう。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、経済面(7面)の「米で5万人雇用 トランプ氏に表明/ソフトバンク孫社長」です(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)。
(写真は、トランプ氏との会談後、報道陣に囲まれる孫正義社長)

トランプ氏、大喜び

 ニューヨークのトランプタワーのロビーで、長身のトランプ氏(写真)が小柄な孫氏の肩を抱くようにして報道陣に話すニュースを見た人も多いと思います。いま世界でもっとも注目されている人物との会談ですから、世界中に「孫正義」「ソフトバンク」の名前が流れたことでしょう。共通の知人を介してトランプ氏との会談を実現した孫氏は、IT関連の有望なベンチャー企業などを対象に投資し、米国で5万人の雇用を生み出すと伝えました。

 大統領選で「失われた雇用を米国に取り戻す」と叫んできたトランプ氏は会談終了後、孫氏の提案を歓迎するツイートを連打。その夜の演説では「日本から来たマサが、米国で新たな雇用をつくると約束してくれた。5万人、5万人だ」と支持者にアピールしました。

トランプ氏当選が追い風

 孫氏の狙いは投資で利益を上げること。規制緩和で米国への投資を促進すると主張してきたトランプ氏の当選は追い風のようです。ソフトバンクは米携帯電話3位だったスプリントを2013年に1兆8000億円で買収。4位だったTモバイルUSも買収して両社を統合しようとしましたが、米規制当局の承認が出ずに断念した経緯があります。

 会談後、孫氏は「トランプ氏は規制緩和をすると言っており、もう一度、ビジネスをやる国として米国にチャンスが出てくると考えた」と語りました。「もう一度」の言葉は、Tモバイル買収に再挑戦する意欲の表明ではないかと受け止められています。

世界最大級10兆円ファンドで

 孫氏は今年、ロシアのプーチン大統領のほか、英国のメイ首相、サウジアラビアのムハンマド副皇太子、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領と相次いで会談、積極的に投資する姿勢をアピールしてきました。 その投資の母体になるのは、ソフトバンクがサウジアラビアの政府系ファンドと共同でつくると発表した世界最大級の10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」です。10月の副皇太子との会談で合意しました。2006年に英ボーダフォン日本法人(現ソフトバンク)、中国のIT大手アリババなど、積極的な投資を次々に成功させてきた孫氏は、この10兆円ファンドによって、自己資本を大きく上回る規模の投資も可能になりました。

未来を予測して投資できる!?

 巨額投資をどこにするかについても、孫氏は布石を打ってきました。今年7月に発表した世界的な半導体設計会社、英アーム・ホールディングスの買収です。3兆3000億円と日本企業による海外企業の買収としては過去最大の投資でした(「世界中のスマホの9割に搭載!? 英アームってどんな会社」2016年7月20日の今日の朝刊)。

 キーワードは、あらゆるモノをネットでつなぐIoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)です。今後の世界の産業で急激に広がるとみられているからです。アームは、携帯電話やスマホ用の半導体設計の世界シェアが9割以上という会社。IoTやAIが本格的に普及すると、アームが設計する半導体の需要が激増するといわれています。最終製品の性能を決定づける回路だけに、製品化の5~10年前から設計に取り組んでいます。孫氏の側近は「アームに集まる情報で未来を予測できる。ライフスタイルがどう変わるのか予見できるようになる」と語っています(10月24日の朝日新聞朝刊)。

◆アームでこれから伸びる最先端分野を把握→その分野に強い欧米などの企業を買収→成長分野に先行投資→新ビジネスの主導権を握る

 孫氏が目指すのは、この流れです。ソフトバンクは、パソコンソフトの卸業という業界の「下流」から起業し、出版、インターネット、携帯電話と進み、創業35年で半導体設計という「最上流」にたどりつきました。孫氏の打つ一つひとつ手が大きな戦略となって結実してきたことがわかります。今後も、孫氏、ソフトバンクグループの動向からは目を離せませんよ。

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