自動車業界が好調です。2018年3月期の決算ではトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、スズキの4社が過去最高の純利益となりました。世界経済が好調に推移しているため、世界全体で販売が好調なことに加え、アメリカのトランプ政権が法人税の減税に踏み切った効果も出ました。ただ、これから先の自動車業界には不安もいっぱいあります。短期的には、アメリカ市場を中心に新車販売にそろそろ息切れ感が出てきていることやトランプ政権による日本車たたきが心配です。中長期的には、欧米中心にガソリン車やハイブリッド車が閉め出される流れになりそうなことや自動運転時代になりIT企業などの新しい競争相手に市場を奪われる可能性があることなどです。日本の自動車メーカーは、世界でもとても競争力があります。こうした将来の不安にも早くから手を打っています。志望している人は、先行きを心配しすぎることはありませんが、自動車業界を取り巻く環境が大きく変わりつつあるということは知ったうえで挑戦してください。
(写真は、決算説明会で話すトヨタ自動車の豊田章男社長)
◇18年3月期実績
<トヨタ自動車>
売上高 29兆3795(6.5)
純損益 2兆4939(36.2)
<ホンダ>
売上高 15兆3611(9.7)
純損益 1兆 593(71.8)
<日産自動車>
売上高 11兆9511(2.0)
純損益 7468(12.6)
<スズキ>
売上高 3兆7572(18.5)
純損益 2157(34.9)
<マツダ>
売上高 3兆4740(8.1)
純損益 1120(19.5)
<スバル>
売上高 3兆4052(2.4)
純損益 2203(▼22.0)
<三菱自動車>
売上高 2兆1923(15.0)
純損益 1076( ― )
※単位は億円。かっこ内は前年比増減率%。▼はマイナス。―は比較できず。トヨタは米国会計基準。ホンダは国際会計基準
就業人口の8%強が自動車産業
日本の自動車産業は、世界でもアメリカ、中国、ドイツなどと遜色ない巨大な産業です。自動車メーカー、部品メーカー、販売会社など国内の自動車産業に従事している人は500万人以上いて、日本のすべての就業人口の8%強を占めています。設備投資額は全製造業のなかの約22%を占め、研究費は全製造業の約25%を占めています。日本最大の輸出製品でもあり、日本の輸出総額の約22%を自動車関連製品が占めています。
トヨタは日本最大の会社
日本の大手乗用車メーカーは8社です。トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、スズキ、マツダ、スバル、三菱自動車、ダイハツ(トヨタグループ)です。大手トラックメーカーは、いすゞ自動車、三菱ふそう、日野自動車(トヨタグループ)、UDトラックスの4社です。2輪車メーカーは、ホンダ、スズキ、ヤマハ発動機、川崎重工業の4社です。いずれも大企業ですが、中でもトヨタ自動車は日本で最も大きな会社と言っていいでしょう。2018年3月期の売上高は29兆円余で、日本の国家予算の3分の1近くを売り上げていることになります。ホンダと日産自動車も売上高が10兆円を超える巨大企業です。
国際化が進んでいる業界
自動車メーカーは日本を代表する企業がそろっていますので、給与や福利厚生はおおむね手厚くなっています。ただ、世界の市場を相手にする仕事ですので、国際化が進んでいます。海外勤務は特別ではありませんし、国内にいても外国人と接することが多い仕事になります。英語は必要と考えたほうがいいでしょう。また、国内でも本社や工場は地方にあることが多く、東京や大阪でずっと勤務するという希望のある人には向いているとは言えません。
「電気で自動運転」は大変化
今、自動車は100年ぶりの大変革期に入っています。20世紀初めにガソリンを動力とする自動車の大量生産が始まり、自動車の時代の幕が開きました。それがここにきて、動力源がガソリンから電気や水素に変わろうとしています。また、並行して運転する人のいらない自動運転車の実用実験が進んでいます。あと10年もすれば、運転者のいない電気自動車が公道を走るようになるとみられています。そうなると、これまでの自動車づくりも自動車の使い方も大きく変わります。電気自動車は電池とモーターで動く単純な構造です。複雑なガソリンエンジンづくりで培ってきたノウハウは必要ありません。しかも、自動運転は人工知能(AI)の世界になります。それは、自動車メーカーよりIT企業や電機メーカーなどの方が得意な分野です。また、自動車は所有するものではなく呼べば来るものになる可能性があります。そうなると社会に必要な台数や自動車の価格にも影響があるはずです。
(写真は、日産自動車が北京モーターショーで披露した新型の電気自動車)
「不透明だから面白い」と考える
今の自動車メーカーには資金や人材がありますので、大変革に対応するよう懸命に努力するでしょう。それでもどういう未来が待っているかは不透明です。「不透明だから面白い」と考えることができる人が、今の自動車業界にはピッタリだと思います。