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2018年05月09日

JALが中長距離LCC検討 なぜ? 課題は?

運輸

 日本航空(JAL)が格安航空会社(LCC)の新設を検討していることが明らかになりました。目指すのはヨーロッパやアメリカに向かう長距離路線です。LCCはサービスや乗り心地にコストをかけないため、片道4時間くらいまでの近距離路線を飛ぶのが一般的でした。しかし、最近、ヨーロッパのLCCが引っ張る形で中長距離路線も飛ぶようになっています。日本航空や全日空(ANA)もこうした流れに乗り、子会社を使って中長距離路線にも踏み出そうとしています。そこには親子のすみ分けが必要で、親はビジネス客、LCCは観光客を主なターゲットにすることになりそうです。しかし、世界的に見るとLCCの勢いが強いため、すみ分けがうまくいかずLCCが高い運賃の親会社の客を奪うことも考えられます。利用者には選択肢が広がりうれしいことですが、航空会社としてはうれしいばかりではありません。

(写真は、日本航空機。2020年にLCC子会社を作り長距離路線に参入する予定)

全日空はピーチに絞って中距離路線へ

 日本の航空業界は全日空と日本航空が2大グループを作っていて、スカイマークなど規模の小さい独立系会社があります。日本では2012年が「LCC元年」といわれ、国内外の航空会社がLCCに参入しました。全日空はピーチ・アビエーションを作って参入し、日本航空はオーストラリアのカンタス航空と共同出資してジェットスター・ジャパンを作って参入しました。全日空はさらにバニラ・エアも傘下に収めました。全日空は2019年度にピーチとバニラを経営統合し、ブランドをピーチ一本にして中距離路線に参入する方針を示しています。日本航空はこうした流れを受けて、本格的なLCC子会社を2020年に作って長距離路線にもうって出ることにしたようです。

(写真は、ピーチ・アビエーションの到着機から降りる乗客たち)

ビジネス客と観光客ですみ分け

 LCCは従来片道4時間程度までの短距離路線向きだとされていました。コストを下げるため、航続距離の短い小型旅客機に統一したり、サービスや乗り心地を求めなかったり、地上待機時間を短くしたりしたためです。このため、日本から海外に向かう場合は、台湾、上海、フィリピンなど比較的近いアジア路線が主力でした。しかし、ヨーロッパのLCC会社は片道7、8時間かかるアメリカ大陸との路線をどんどん広げ、大きく成長してきました。さらにアジアと結ぶ長距離路線も開設し始めました。つまり、これまで路線の長さで既存の航空会社とすみ分けしていたのですが、ビジネス客と観光客というように客層ですみ分けする時代に向かっています。

(写真は、LCC専用の成田第3ターミナルには国際線のチェックインが重なる時間には長い列ができる)

コスト削減どこまでできる?

LCCは東南アジアでは6割のシェアをもち、ヨーロッパでも4割を占めています。しかし、日本では1割程度のシェアしかありません。それだけ全日空と日本航空の寡占体制が強力だということです。しかし、政府は訪日外国人客を2020年に4000万人、2030年に6000万人と大きく伸ばす計画をもっており、2020年代をにらんで伸ばす余地のあるLCCに力を入れるという結論に両社は達したようです。そのために、まだLCCでの競争が激しくない中長距離路線を持つ本格的なLCC会社をつくろうというわけです。ただ、アメリカ本土やヨーロッパにまで飛ばすと機材も大型にしなければならず、質のいい食事を提供することや座席間隔を広くすることも必要になります。圧倒的な価格競争力を持つことができるかどうかという課題が出てきます。この課題をクリアしたとしても、もっと大きな課題が出てきます。子会社のLCCにより自社のお客さんを奪われる可能性が出てくることです。しかし、LCCに力を入れなければ海外のLCCに浸食されてしまいます。こうしたジレンマは流通や携帯電話業界など多くの業界でありますが、結局、守るより攻めて全体のパイを大きくするしかないという結論になるのが一般的です。

(写真は、ピーチ・アビエーションの機内)

人気業界も課題に奮闘

全日空、日本航空は最近、就職人気でトップを争う会社です。華やかさ、待遇のよさ、業界の成長性などが評価されているのだと思います。ただ、世界各地の紛争、感染症の流行、大事故などにより業績の浮き沈みが大きいことも業界の特徴です。加えてLCCによる競争の激化も波乱要因に浮上してきています。評価の高い業界であってもいろいろな課題を抱えて奮闘しているのです。

(写真は、全日空機とLCCのピーチ機が並ぶ国際線ターミナル)

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