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2019年10月25日

クルマ業界支えるのは「高級になった軽自動車」

自動車・輸送用機器

 軽自動車は、「値段が安くて近場で使うクルマ」というイメージがありました。実際、地方のセカンドカーとしてよく売れていました。しかし、最近は「高性能なのに乗りやすいクルマ」という評価が高まり、イメージも値段や機能も変わってきています。国内の自動車市場は人口減少や若者のクルマ離れによって伸びなくなっていますが、高級になった軽自動車の人気が下支えしています。ただ、軽自動車は日本独自の規格なので輸出には期待できません。自動運転電気自動車(EV)による新時代を前に、軽自動車メーカーは巨大メーカーの傘下に入る動きが出ています。

(写真はいずれも東京モーターショーから。日産自動車が出展した軽のEVコンセプトカー=10月23日、東京都江東区の東京ビッグサイト)

戦後まもなくできた規格

 軽自動車は、1949年にできた日本独自の自動車の規格です。戦後間もない日本はまだ貧しく、欧米の大きなクルマはなかなか買えませんでした。日本人も買える小さくて安いクルマの規格を作って、日本製のクルマを普及させようという狙いでした。その後、日本が豊かになるに従って、クルマの大きさや排気量の規格が徐々に拡大され、現在は長さ3.4メートル以下、高さ2.0メートル以下、幅1.48メートル以下で、排気量660㏄以下のクルマが軽自動車となっています。軽自動車だと、各種の税金が安くなるメリットがあります。

(写真は、ダイハツが出展した軽のSUV風のコンセプトカー)

新車販売台数の37%が軽

 2019年上期(1~6月)でみると、日本の新車販売台数のうち、37%を軽自動車が占めています。また、車種別ではホンダの「N-BOX」が1位で、2位にスズキの「スペーシア」、3位にダイハツの「タント」、4位に日産自動車の「デイズ」が入り、上位4位までを軽自動車が占めています。

 軽自動車だけのメーカー別新車販売ランキングでは、ダイハツがトップで、僅差でスズキが2位です。続いて、ホンダ、日産自動車、三菱自動車マツダトヨタ自動車スバルの順になっています。

(写真は、新車販売ランキングでトップを走るホンダの軽「N-BOX」。手前の「カスタム」は200万円超する)

ダイハツもスズキもトヨタの傘下に

 ダイハツ、スズキの2社は軽自動車が売り上げの大半を占めるメーカーで、軽メーカーと呼ばれます。古くからライバルとして、熾烈なトップメーカー争いをしてきました。それ以外のメーカーは普通自動車の比重が大きく、軽自動車は軽メーカーから供給を受けたり、品揃えをよくするために製造していたりします。ダイハツ、スズキのトップ2社も軽メーカーとして独立しているわけではなく、ダイハツは以前からトヨタの子会社になっており、スズキは今年8月にトヨタと資本提携し、実質的にトヨタの傘下に入りました。自動車新時代を迎えるにあたって、自動車メーカーは巨額の開発費用が必要になっています。スズキの決断はダイハツとのライバル関係よりも新時代の生き残りを重視したものとみられます。

(写真は、スズキのSUV風コンセプトカー)

最先端の装置つけて高価格に

 軽自動車の新車価格は最近上がっています。総務省の小売物価統計調査によると、軽の平均価格は2001年に約88万円でした。それが2018年には約140万円まで上昇しています。この間の物価上昇率をはるかに上回る上がり方です。上がった理由はクルマが高級になったことです。特に多くの軽自動車に安全装置が装備されるようになったことが大きいようです。軽自動車は小さいので安全性が不安視されていましたが、自動運転技術を利用した最先端の装置をつけることで不安を和らげることに成功しています。インターネットで新車の見積もりを計算すると、オプション装備をいろいろとつけた場合、200万円を軽く上回ることも珍しくありません。

(写真は、三菱自動車の軽自動車のコンセプトカー)

制約の中でのものづくりの面白さ

 日本の自動車市場はほぼ飽和しています。もう少しすると市場は縮小に転じるという予測もあります。軽自動車は日本独自の企画のため、海外では減税の恩恵がなく、「小型車といえばリッターカー(排気量1000㏄以下のクルマ)」という海外市場ではなかなか競争力がありません。つまり、軽自動車は国内市場で生きていくしかないクルマです。軽自動車の人気は、そうした厳しい環境の中でメーカーが懸命にユーザーのニーズを追求した結果でしょう。軽メーカーには制約の中でのものづくりの面白さがあると思います。

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