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2019年11月08日

投資会社になったソフトバンクGに見えたリスク

通信・インターネット関連

 ソフトバンクグループ(SBG)は、2019年9月中間決算で本業のもうけを示す営業損益赤字になりました。中間決算での赤字転落は15年ぶりです。SBGの本業は携帯電話事業でしたが、最近はほかの会社に出資する投資会社の色彩を強めています。しかし、投資先企業の評価額が激減したことによって赤字になりました。また、ネット通販事業や携帯電話事業でSBGと競合する楽天も2019年1~9月決算で純損益が8年ぶりに赤字になりました。こちらも投資先企業の株価低迷で損失が出たことが響きました。投資事業はあたれば大もうけできますが、はずれれば大きな損が出るギャンブルの側面があります。成長してきた大手IT企業の投資戦略は大やけどをするリスクがあることも見逃してはいけないと思います。

(写真は、9月中間決算について説明するSBGの孫正義会長兼社長=2019年11月6日、東京都中央区)

ウィーワークへの投資で巨額損失

 SBGの赤字の大きな原因は、アメリカのシェアオフィスのウィーワークへの投資です。運営するウィーカンパニーの創業者にSBGの孫正義会長兼社長がほれこみ、約1兆円を投じました。しかしウィー社は乱脈経営が問題視され、上場計画が頓挫しました。SBGは追加で9000億円を投じましたが、企業価値の下落は大きく、巨額の損失を計上しなければならなくなりました。アメリカの配車大手ウーバー・テクノロジーズにも投資していますが、こちらも株価が低迷し、損失を出しました。

(写真は、日本にも進出しているウィーワークのオフィス=2019年10月17日、東京都渋谷区)

10兆円を新興80社に投資

 SBGは、2013年にアメリカの携帯電話会社のスプリント、16年にイギリスの半導体設計会社のアームと兆円単位の大型買収を続けてきました。2017年には投資ファンド「ビジョン・ファンド(VF)」を立ち上げ、10兆円をAI(人工知能)などの新興会社80社に出資しました。出資した会社が成長すると配当や上場益でもうけることができます。投資会社のビジネスモデルです。

(写真は、アームの本社=英ケンブリッジ)

経済の急激な落ち込みがこわい

 第4次産業革命と言われる時代ですから、新しいものを生み出す企業が次々に現れて成長していくことが予想されます。SBGが投資した企業のいくつかが大きく成長すれば、SBGは投資した金額以上のリターンが得られるでしょう。ただ、こわいのは2008年のリーマン・ショックのようなバブル崩壊による経済の急激な落ち込みです。リーマン・ショックを逃れることができた企業はほとんどないように、そうした事態になれば、投資した会社が軒並み評価を落とし、SBGの損失は巨額になるでしょう。

(写真は、SBG傘下の米携帯大手スプリントの店舗=米ニューヨーク市)

金利の急騰もこわい

 もうひとつこわいのは、金利の急騰です。景気が過熱してインフレが進んだり、国の財政悪化が進んだりすると、金利は上がる方向に動きます。SBGは投資資金の多くを借り入れによって調達していて、有利子負債は14兆円にまで膨らんでいます。現在の超低金利の時代でも年間数千億円の利払いがあります。金利が上がると利払いがさらに増え、業績を圧迫する恐れがあります。

(写真は、9月中間決算について説明するSBGの孫正義会長兼社長=2019年11月6日、東京都中央区)

業績の浮き沈みが大きい

 日本の大手IT企業は、時代の波に乗りここまで成長してきました。ただ、ほかの産業同様、人口が減少する国内市場にさらなる伸びはあまり期待できません。いきおい、海外の成長しそうな企業に投資することで成長を維持しようとすることになります。その場合、投資にリスクがあるのは当然ですが、リスクをとりすぎるのは問題です。SBGがリスクをとりすぎているかどうかの判断はできませんが、SBGのような会社は今後も業績の浮き沈みが大きいだろうということはできると思います。

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