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2019年11月22日

クラフトビールで攻めるキリン 他社はどうする?

食品・飲料

 キリンホールディングス(HD)は、アメリカのクラフトビール3位の「ニュー・ベルジャン・ブルーイング」を買収すると発表しました。クラフトビールは製法などにこだわった小規模醸造のビールで、最近若い世代を中心に人気が出ています。ビール業界全体がクラフトビールに注目し始めていますが、中でもキリンは2014年にクラフトビール国内最大手のヤッホーブルーイング資本提携を結び、以来、クラフトビールに力を入れてきました。アメリカやカナダに比べると、日本のクラフトビールのシェアは小さく、まだ伸びる余地の大きい市場とみているからです。日本のビール市場(発泡酒第3のビール含む)は人口減少で縮小傾向が続いています。世界のビール市場も横ばいから減少傾向が見え始めており、海外進出だけで伸びが保証されるわけではありません。キリンは付加価値の高いクラフトビールの分野を増やすことを新しい戦略にしています。クラフトビールの専業メーカーやほかのビール大手もキリンの戦略に注目しています。

(写真は、ニュー・ベルジャン・ブルーイングの主力ビール「ブードゥーレンジャー」=キリンHD提供)

地ビールからクラフトビールへ

 クラフトビールは「地ビール」の新しい呼び方です。1994年の酒税法改正でビール製造免許取得に必要な年間製造量が大幅に引き下げられ、新規参入が急増し、地ビールブームが起きました。しかし、味のばらつきが大きかったり割高だったりしてブームは去りました。生き残った原料や製法にこだわる作り手が手作りビールを意味する「クラフトビール」と名乗るようになりました。現在、国内にクラフトビールの醸造所は300を超えています。国内のビール市場に占めるクラフトビールの割合は約1%で増加傾向とされています。

(写真は、ヤッホーブルーイングの「よなよなエール」=同社提供)

クラフトの伸びで統計公表とりやめ

 一方、ビール大手各社の「ビール系飲料」(ビール、発泡酒、第3のビール)の総出荷量は昨年まで14年連続で減っています。市場シェアはアサヒビール、キリンビールが30%代後半で1、2位を占め、サントリーサッポロビールが10%台で3,4位を占めています。ただ、このビール酒造組合とビール大手各社がまとめた総出荷量の統計は、今年分から公表を取りやめることになりました。酒造組合によると、小規模メーカーのクラフトビールなどの出荷量が増え、大手のみの数値では市場実態を伝えられなくなったためとしています。クラフトビールの伸びは、統計にも影響を与えるようになっています。

アメリカはもっとも有望な市場

 キリンはアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどクラフトビールが定着している地域に絞って、企業買収などを検討してきました。特にアメリカはクラフトビールがビール全体の13%まで伸びており、最も有望な市場になっています。2016年にはニューヨークのブルックリン・ブルワリーに出資しました。今回のニュー・ベンジャン・ブルーワリーの買収は本格的なアメリカ進出という意味合いがあります。アメリカでさらに伸ばし、日本にも輸入する狙いです。実は、日本の小規模メーカーも海外市場に目を向けています。長野県軽井沢市のヤッホーブルーイングは2010年ごろからアメリカへの輸出を始めています。ほかのメーカーでも台湾、香港、韓国などのアジアに向けて輸出しているところがあります。

「1社ではうねりは起こせない」

 国内市場の縮小が避けられないビールメーカー各社が海外市場に狙いをつけるのは当然です。最近は、積極的なM&Aや輸出が目立ちます。しかし、今のところクラフトビールを大きな柱にするのは大手ではキリンだけのようです。スーパードライなどが強いアサヒは主力ブランドで勝負する構えです。キリンの布施孝之社長は今年の朝日新聞のインタビューで「クラフトビールによって本質的にビールはわくわくする楽しいものだと感じてもらいたい。自社だけでよければいいのではなく市場そのものを拡大したい。1社でやってもうねりは起こせません」と言っています。業界全体がクラフトビールで盛り上がれるかどうかが肝心ですが、まだどうなるかわからない状況です。

(写真は、資本業務提携を発表したキリンビールの布施孝之社長〈右〉とブルックリン・ブルワリーのロビン・オッタウェイ社長=2016年10月12日、東京都千代田区)

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