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2019年12月06日

出版業界にネットメディア続々参入…苦境の「救世主」?

マスコミ・出版・印刷

 日本の出版物の販売額は1996年をピークにほぼ減り続けています。紙の雑誌や書籍がインターネットの情報に取って代わられてきたためです。出版社は電子媒体向けの出版を増やしていますが、紙の出版物の落ち込みをカバーするところまでいきません。こうした縮小傾向の出版界にネットメディアの参入が相次いでいます。自社のネットメディアに掲載した記事の中から読者の反応を分析して本にするのです。売れ行き好調の本も少なくなく、電子から紙への逆流現象が始まっています。ただ、この流れが出版業界の「救世主」となるほどの力を持つかといえば、それは疑問です。紙が見直されてきたというほどのインパクトはまだ感じられず、出版業界は苦境脱却の模索を続ける必要がありそうです。

(写真は、ハフポスト日本版が出版した「サードウェイ」。ポップ広告とともに書店で平積みされていた=10月31日、東京都新宿区)

有料の本への抵抗感減る?

 最近、紙の書籍の出版に力を入れているネットメディアには、ハフポストハフポスト日本版、ニューズピックスサイボウズなどがあります。ネットで連載し、その中から時間をかけて読まれていたり、SNSでポジティブな反応が多かったり、まとまった分量があったりするものを本にするのが特徴です。メディア環境研究所の2019年の意識調査で「情報やコンテンツは無料で手に入るものだけで十分」との回答は28.7%にとどまり、2016年より17.3ポイント減りました。良質なコンテンツにはお金を払うという流れも生まれているようです。

紙はピーク時の半分割る

 2018年の国内の出版物の売り上げは前年に比べて3.2%減の1兆5400億円でした。これは紙と電子出版を合計したもので、紙だけでは5.7%減の1兆2921億円です。売り上げがピークだった1996年は2兆6563億円でした。この時の売り上げはほぼすべてが紙の出版物でしたので、紙だけを比べれば2018年にはピーク時の半分を割ったということになります。2018年の電子の販売額は11.9%増と大きく伸びていますが、2479億円と絶対額がまだ小さいため、全体ではマイナスが14年連続となっています。

公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所のニュースリリース

業界のほとんどは中小企業

 出版社を売上高が大きい順番に並べると、講談社集英社KADOKAWA学研ホールディングス小学館となります。ただ、こうした会社も出版部門の売上高をみると減少傾向が続き、規模も多くても1000億円台にとどまっています。兆円台の売り上げ規模の会社が並ぶ自動車業界などと比べると、小さな業界といえます。会社数は約3000社と多いので、1社あたりの平均売上高は単純計算で約5億円になります。本や雑誌は子どもから大人までなじみの深い最終商品なので知名度のある会社が多いのですが、業界のほとんどは中小企業といえます。

買い切り制への流れはどうなる?

 業界で最近注目されている動きが、出版物の買い切り制への流れです。日本の出版業界は委託販売制再販制に支えられてきました。委託販売制とは、書店が売れ残った本や雑誌を出版社に返品することができる制度です。再販制は本を定価で売らないといけない仕組みです。委託販売制によって書店はリスクを負わずに仕入れることができ、再販制によって出版社と書店は値崩れを防ぐことができます。ただ、アマゾンジャパンは、書籍を直接購入して返品しない「買い切り」を始める方針です。あわせて売れ行きや期間に応じて値下げ販売も検討しています。また、TSUTAYAも買い切り方式で仕入れる方針を明らかにしています。少部数の本を出版している一部の出版社からも買い切りに積極的なところが出ています。ただ、多くの出版社は「大手書店に買いたたかれるのでは」と買い切りに抵抗感を示しています。この流れの行方は出版業界に大きな影響を与えそうです。

(写真は、「GINZA SIX」内の蔦屋書店=東京都中央区)

就活では「好き」かどうかも重要

 出版業界は、昔から本や雑誌好きの学生に人気の高い業界です。文化の香りが高く、手作り感のある仕事が魅力になっているようです。また、大手の多くは給与が比較的高いと言われます。最近は紙の出版物の将来性に不安があるためか昔ほどの人気はないようです。しかし、紙の出版物が近い将来消えてなくなるわけではないでしょう。「どこかで下げ止まるのではないか」という楽観的な見方をする人もいます。就活において業界の将来性を見ることは重要ですが、「好き」かどうかも重要です。

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