三菱重工業と日立製作所は両社の合弁会社の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)が南アフリカで手がける火力発電所のボイラー工事の費用負担をめぐり、和解したと発表しました。日立が三菱重工に和解金2000億円を支払い、保有するMHPSの全株式を三菱重工に譲渡します。これによって三菱重工はMHPSを完全子会社とし、日立は火力発電所の建設から撤退することになります。今、世界では石炭火力発電所に厳しい目が向けられています。地球温暖化の原因となる二酸化炭素をたくさん出すからです。日本の火力発電所はコストの安い石炭火力発電所が多く、環境問題を話し合う国際会議では批判の的になっています。日本で最大の火力発電設備事業者である三菱重工は逆風の中、石炭を含む火力発電を強化する道を選びました。深刻化する環境問題とどう調和させるのか、リスクのある選択であるのは間違いありません。
(写真は、石炭火力発電所への投融資をめぐる日本への抗議デモ=2019年9月23日、米ニューヨーク)
石炭火力は全電源の30%以上
現在、日本の電源で最も大きな割合を占めているのが火力発電で、全体の50%以上を占めています。火力発電にも石炭、石油、天然ガスなどがありますが、最も大きいのが石炭火力で全電源の3割を占めています。石炭火力は最新鋭のものでも天然ガス火力の2倍の二酸化炭素を出しますが、コストが安いので石炭火力に頼っているのが日本の現実です。
(写真は、三菱重工業本社=東京・丸の内)
三菱重工が世界の3強に
火力発電に関わる企業はたくさんあります。電力会社はもちろん、タービンやボイラーをつくる設備事業者や建屋をつくる建設業者など、多くの企業が建設や運営に関わっています。その中で、設備事業者として日本最大の会社がMHPSです。2014年に国内で2強だった三菱重工と日立の火力設備事業部門が統合して発足しました。世界では、アメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)とドイツのシーメンスが2強でしたが、MHPSはそれに迫る規模となり、「3強」と呼ばれてきました。MHPSが三菱重工の完全子会社となったことで、三菱重工が世界の3強に入ったことになります。
(写真は、MHPSがボイラー建設を担う南アフリカのクシレ石炭火力発電所=2018年11月27日)
投融資にESGを重視する流れ
ただ、石炭火力発電への風あたりは強くなっています。欧米の投資家を中心に投融資に関して「ESG(環境、社会、企業統治)」を重視する流れが強まっています。日本でも三菱UFJフィナンシャル・グループが新設の石炭火力への融資を原則として行わない方針を表明しています。東日本大震災後、日本では50の石炭火力発電所の新増設が計画され、13基が中止になっています。ただ、世界では石炭火力ゼロを掲げる国は増えており、フランスが2021年、イギリスとイタリアは2025年、カナダは2030年にゼロとするとしています。日本はそうした計画を持っていません。
背景に造船などの苦戦
三菱重工は造船、航空機などの分野で苦戦しています。造船では、発祥の地である長崎市内の造船所のひとつを売却してLNG船から撤退することを決めました。航空機では、国産ジェット旅客機「スペースジェット」(写真)の事業化が遅れに遅れています。また、原子力発電所の建設に関しても国内外で行き詰まっています。こうしたことから、逆風にもかかわらず火力発電設備事業を強化する選択をせざるを得なかったとみられます。国内で石炭火力発電所の建設がまったくなくなるのはまだ先になりそうですし、アジアではこれから新設が増えるという見通しもあります。すでに稼働している発電所のメンテナンスもありますので、当分は利益が出るという判断だと思います。
企業のブランドイメージを左右
環境問題と企業活動の調和は簡単ではありません。ただ、地球環境問題は人類の生存に関係する深刻な問題です。世界の潮流は日本で考える以上に二酸化炭素の排出に厳しくなっているようです。二酸化炭素を増やす活動をしている企業には、投融資されなくなりつつありますし、SNS社会では情報はあっという間に世界で広がりますので、企業のブランドイメージも傷つくことになります。環境問題に逆行する企業というイメージは、企業にとって大きなダメージになります。企業の将来を考える上で、就活の際にも環境問題への対応について調べることが大切なことのひとつだと思います。
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